飲食店の業態転換の実践ガイド!注意点や成功するためのポイントを徹底解説!

飲食店の業態転換の実践ガイド!注意点や成功するためのポイントを徹底解説!
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目次

第1章. そもそも業態転換とは何か?その定義と背景

業態転換とは何か?その定義と背景

1-1. コロナ禍で進む飲食店の業態転換

近年、「業態転換」は飲食店をはじめとする多くの事業者にとって重要なキーワードになっています。特にコロナ禍以降は、顧客の行動パターンや需要が劇的に変化し、従来の運営方法だけでは売上を安定させにくくなりました。たとえば、外出自粛や営業時間の制限などにより、昼営業を強化したり、テイクアウトやデリバリーを導入する店舗が増えたのは記憶に新しいところです。

飲食店がこのように形態を変化させ、経営を立て直す手段として「業態転換」は不可欠となっています。具体的には、メニューを専門特化する、営業スタイルを昼主体に変える、あるいはテイクアウト専門店に衣替えするといった方法が挙げられます。こうした大きな変化は事業としてのリスクを伴う反面、うまくハマれば新たな顧客ニーズを獲得できるチャンスでもあります。

コロナ禍が契機となった今、売上や店舗運営に不安を抱えるオーナーや経営者は、状況を打開するために業態転換を積極的に検討するケースが増加しました。消費者のマインドチェンジを正しく掴むことが、飲食店として生き延びる第一歩といえるでしょう。

1-2. 飲食店における業態転換の必要性

そもそも、なぜ飲食店で業態転換がこれほど求められているのでしょうか。大きな要因としては「市場の変化」に伴う経営環境の激変が挙げられます。たとえば、外食需要が減少傾向にあるなかでも「巣ごもり消費」に代表されるように、持ち帰りやデリバリーなど新しい形態の需要は伸びています。こうした顧客の声に応じないまま、これまでと同じ方法で店舗を運営し続けると、売上が減少し経営が立ち行かなくなる可能性が高まります。

さらに飲食事業は、家賃や光熱費、人件費など固定費が大きい点が特徴です。売上が落ち込んでもコストは変わらずにかかるため、早めに新しい方向性を模索する必要があります。そこで強みを活かした業態転換を行い、新しい顧客層を取り込みながら、将来的にも安定した経営を目指すことが有効です。コロナ禍が明けたあともライフスタイルが以前の状態に完全に戻る保証はなく、「次」に備える戦略は欠かせません。

飲食店にとって業態転換は一時的なテコ入れではなく、長期的な生存戦略としての価値を持っています。リスクを恐れて何も変えない場合、市場や消費者ニーズから取り残される恐れがあるため、変化に柔軟に対応する姿勢が求められているのです。


第2章. 業態転換が必要な飲食店の特徴とその目的

業態転換が必要なケースと目的

2-1. 業態転換すべき店舗

どのような店舗が業態転換を考えるべきか、具体的な基準を挙げてみましょう。まずは「既存業態での売上が大きく落ち込み、経営が厳しくなってきた店舗」です。コロナ禍や経済の変動により、客足が減少し固定費が重荷になっている場合は、真っ先に業態転換が選択肢として上がります。また、競合店舗の増加によって差別化が難しくなったり、近隣の顧客ニーズと自店の提供する価値がマッチしなくなったりしたときも転換を検討すべきタイミングです。

次に、すでに一定の客数はいるものの、将来的な成長見込みが頭打ちになっている店舗も要注意です。新たな業態へ移行することで事業を拡大できる可能性があるならば、それは大きなチャンスといえます。たとえば、焼き肉店がランチ時間にハンバーグ専門メニューを提供してみるなど、小規模な変更を足がかりにして、市場の反応を確かめるのも一つの手段です。

さらに、オーナーや従業員の意欲・モチベーションが低下している店舗も、変化をもたらすことで組織を再活性化できるかもしれません。雰囲気が閉塞感に包まれているときこそ、業態転換をきっかけに新たなビジョンを共有し、チームを巻き込んで挑戦する意義は大きいでしょう。

2-2. 業態転換の目的と効果

業態転換の目的と効果

業態転換の目的は、ただ「経営不振を打破する」だけではありません。いくつか代表的な目的と効果を見てみましょう。

  1. ステップアップ
    経営が安定してきた飲食店が、より高い売上を目指して業態を変化させるケースがあります。たとえば、居酒屋業態から高級レストランへシフトし、客単価を引き上げて利益率を改善するなどです。これは一種の「成長戦略」としての業態転換といえます。
  2. 業績不振の打破
    既存のビジネスモデルで売上が落ち込み、経営を続けるのが難しくなってきた店舗が、新たな切り口で生き残りを図るパターンです。夜メインの営業形態だった店がランチ営業を強化し、新たにテイクアウトメニューを導入した結果、売上の下支えに成功する例などが該当します。
  3. 消費者ニーズへの対応
    顧客の需要が「イートイン」から「テイクアウト」「デリバリー」へ大きく変化したのは、コロナ禍の象徴的な事例です。そこに柔軟に対応するため、あえて店舗スペースを削減し、デリバリー専用キッチンに改造する動きも広がりました。このように、変化したニーズに合わせることで、新しい顧客を呼び込むことが可能になります。
  4. 安定した資金繰りのため
    業態転換には当然、初期投資や運営コストが発生しますが、それ以上に見込める売上アップやリスク分散効果が期待できるならば、長期的にメリットが大きいです。余剰資金を活用して内装工事や新メニュー開発を行うことで、店舗をワンランク上のステージへ引き上げる戦略を取りやすくなります。

ここで大切なのは、目的が明確であるほど戦略を立てやすくなるという点です。「何がやりたいのか」「なぜ変化が必要なのか」を店舗全体で共有することで、業態転換の成功率は格段に高まるでしょう。

2-3. 業態転換のタイミング

では、具体的にいつ業態転換を行うのがベストでしょうか。ひとつの指標としては「市場や周辺環境が急速に変化し、今の業態のままでは将来の見通しが暗い」と感じたときです。たとえば、コロナ禍でリモートワークが定着し、オフィス街のランチ需要が劇的に減少しているのに、ビジネス街に特化した営業を続けている場合、早急な方針転換を検討する価値があります。

また、すでに前項で触れたように、一定の売上はあるものの伸びしろが見えない場合や、スタッフのモチベーションが低下している場合も好機です。何かしらの変化を与えない限り、状況はジリ貧の方向へ進むかもしれません。経営者としては、手遅れになる前に「まだ体力があるうちに」動き出すことがポイントです。資金がまったく枯渇してからだと、思い切った業態転換に必要な投資が難しくなります。

タイミングを見誤らないためには、普段から店舗の売上推移だけでなく顧客の行動、競合店舗の様子、社会全体のトレンドなど、あらゆる指標を客観的にウォッチすることが大切です。小さな変化を見逃さずに捉え、未来に向けた準備を早めに始めることで、余裕を持った形で成功へ近づけるでしょう。

ポイントの整理

  • 市場や顧客のニーズが明らかに変化していると感じる
  • 競合店舗の新サービスが好調で、自店の売上が伸び悩んでいる
  • スタッフのモチベーションや経営者自身のビジョンが曖昧になっている
  • 資金に余力があるうちに新業態を試したい

いずれにしても、直感的な焦りで決定するのではなく、冷静なデータ分析としっかりした目的意識をもって「どの時点で変化すべきか」を見極めることが重要です。


第3章. 飲食店が業態転換するメリットとデメリット

業態転換のメリット・デメリット

3-1. 業態転換のメリット

業態転換を行う最大のメリットは、新たな顧客層との接点を得やすくなる点です。これまでと同じ商圏や同じ顧客層だけを相手にしていては、売上の伸び悩みが続く可能性があります。しかし、メニューやコンセプト、さらには営業スタイルを変えることで「これまで来店していなかった層」が興味を持ってくれるチャンスが生まれます。

さらに、業態転換に成功すると、店舗のブランドイメージが一新され、マーケティングのやりやすさも高まります。SNSや口コミサイトなどを通じて「新しい店ができた」と話題になれば、オープン直後のような集客効果を再度体験できます。売上面でも大きな上昇が期待できるでしょう。

また、事業リスクの分散にもつながります。たとえば、これまで夜間の居酒屋営業だけに依存していたところを、昼のランチやテイクアウト商品にシフトすれば、1日の売上ピークが増え、経営の安定性が高まる可能性があります。コロナ禍のように急激な需要変化が起きた際も、複数の売上チャネルを持っている店舗は、ダメージを最小限に抑えやすいです。

3-2. 業態転換のデメリット

デメリット

一方で業態転換にはデメリットもあります。代表的なものとして、改装費や設備投資などの初期コストが高額になるケースが挙げられます。たとえば、夜型の居酒屋から昼営業にシフトする場合でも、内装を変えたり、新しい厨房機器を導入したりするための費用がかかるかもしれません。

また、これまでの常連客が離れてしまうリスクも無視できません。長年通っていたお店が急に業態を変えてしまうと、客層の違いや価格帯の変更などから、従来の顧客が足を遠のく可能性があります。売上がすぐに回復しない期間をどう乗り切るかも重要な課題です。

さらに、業態転換に伴ってスタッフの配置や教育が必要になります。新しいメニューやオペレーションに対応しきれず、従業員が戸惑ってしまうと、結果的にサービスレベルの低下を招くかもしれません。スムーズに移行できるよう、計画的なトレーニング期間やマニュアルの整備が求められます。

総じて、業態転換には「投資コスト」「リニューアル後の集客」「オペレーション再構築」など多面的な準備が必要となりますが、それを乗り越えた先には大きな成長の可能性が広がっています。タイミングと資金計画がしっかりしていれば、デメリットを最小化し、メリットを最大化することも可能でしょう。


第4章. 飲食店が業態転換するリスクと注意点

業態転換のリスクと注意点

4-1. 失敗の原因分析とリスクマネジメント

業態転換は、飲食店にとって大きなチャンスである一方、失敗に終わってしまうケースも少なくありません。大きなリスクとしては、「想定していたほど顧客が来なかった」「初期投資が回収できず資金繰りが厳しくなった」などが挙げられます。これらの背景には、市場調査不足やコンセプトの不徹底といった要因が潜んでいることが多いです。たとえば、テイクアウト需要が伸びているからといって、十分に立地やオペレーションを検討せずに業態転換してしまうと、思うように売上が上がらず、経営悪化を招きかねません。

リスクマネジメントとしては、まず「事業計画」の段階での徹底した数値シミュレーションが欠かせません。改装や新メニュー開発にどのくらいコストがかかるのか、業態転換後はどれだけの集客・売上を目指すのかを具体的に設定することが重要です。さらに、競合店舗の動向や顧客ニーズを客観的に把握し、業態転換を開始してからも定期的に改善を繰り返していく姿勢が求められます。変化する市場環境に柔軟に対応することで、リスクを最小化しながら成功へ近づけるでしょう。

4-2. 業態制限や変更届など法的側面の留意

業態転換において意外と見落とされがちなのが、法的な手続きです。飲食店は保健所や消防、自治体などとの行政手続きを踏まえる必要があるため、メニューや販売方法、内装変更の有無によっては「許可の取り直し」「変更届の提出」が求められる場合があります。たとえば、深夜酒類提供飲食店から一般的なレストランに変わる場合、営業時間や提供する酒類の種類によって条例が変わることが考えられます。

また、飲食店としての営業許可だけでなく、アルコール販売の免許や屋外看板に関する規制など、複数の要件を同時にクリアしなければならないこともあります。違反した状態で営業を続けると、最悪の場合は営業停止命令が下りるリスクも。業態転換を検討する段階で、自治体や専門家に相談し、必要書類や手続きを整理しておくことが得策です。これら法的側面は、対象となる業態によっても大きく変化するため、事前の下調べを怠らないことが成功のカギとなります。

4-3. メニューを変更する場合の注意点

メニュー構成は業態転換で最も大きなインパクトを与える要素の一つです。しかし、闇雲に新しいメニューを増やしたり、逆に大幅に既存メニューを削ったりすると、顧客を混乱させる恐れがあります。特に長年通っている常連客にとっては「好きだった料理がなくなった」という喪失感が大きいことも。そこで、変更後のメニューには「新しい魅力」を打ち出すと同時に、「これまでの良さ」を少し残しておくなどのバランス調整が必要です。

また、メニューを変更する際には厨房設備や仕入れ先の見直しもセットで考えなければなりません。新しい食材を扱う際には衛生管理や調理工程の再教育が必要になる可能性もあります。オペレーション面での混乱を最小限に抑えるために、段階的にメニューを移行していく方法も有効です。例えば、まずは限定メニューとしてテスト導入し、その反応を見て正式採用に移行するやり方なら、過剰な投資を避けられます。こうしたステップを踏むことで、顧客ニーズを的確につかみながら新たな業態へ移行できるでしょう。


第5章. 業態転換に向けた準備と成功のポイント

業態転換の準備プロセスと成功のポイント

5-1. 成功する業態転換の手順

業態転換の成功率を高めるには、明確なプロセスを踏むことが重要です。最初に行うべきは「現状の分析」です。店舗の売上推移や顧客属性、競合状況などを多角的に調べ、なぜ今のスタイルでは勝ち残れないのか、どの部分を強化すれば成長の余地があるのかを洗い出します。ここでの分析が不十分だと、後々の方向性が定まらず、投資コストばかりかさむ事態になりがちです。

次に「新業態のコンセプト」設定を行います。ターゲットとする顧客層や提供するメニューの方向性、価格帯などを具体的にイメージし、「この店舗だからこそできる独自性」を打ち出しましょう。その後、店舗改装やメニュー開発、スタッフ教育などの工程を緻密に組み合わせ、計画書を作成します。資金調達やスケジュール管理も同時並行で行うことが必要です。最後に、リニューアルオープン後は経営数値と顧客の反応を見ながら柔軟に修正を加えていくのが定石です。最初から100点満点を目指すのではなく、小さなPDCAサイクルを回して成功へ近づけるイメージを持つと良いでしょう。

5-2. 市場調査と競合分析

「飲食店の業態転換=新規事業の立ち上げ」と捉えても過言ではありません。新たな顧客を獲得し、売上を伸ばすためには、市場調査と競合分析が欠かせないからです。まず、候補として考えている業態の市場規模はどの程度あるか、将来的に拡大が見込めるかをリサーチしましょう。例えば、テイクアウトが盛んなエリアなのか、夜営業の需要が高いエリアなのかといった地域性の検証も大切です。

競合分析では、似たようなコンセプトの店舗が周辺にあるか、既に確立されているブランドや人気店にはどのような強みがあるのかを調べます。たとえば、同業態の飲食店が乱立しているエリアであれば、差別化ポイントをより強く打ち出さないと集客が難しいでしょう。その際、「価格」「サービス」「メニュー」「店舗デザイン」など複数の観点で優位性を検討し、他店にはない価値を発見することが重要です。

5-3. 資金計画と予算管理

業態転換を成功させるうえで、資金計画は最優先課題の一つです。例えば、厨房設備の入れ替えや内装工事、広告宣伝費などの初期投資はもちろん、転換後すぐに売上が伸びるとは限らないため、運転資金もある程度確保しておく必要があります。資金が足りなくなると、メニュー開発や設備投資で妥協せざるを得ず、「中途半端な業態転換」に終わるリスクが高まります。

また、飲食店が利用できる補助金や助成金、金融機関の融資制度など、多角的に支援を受けられる可能性を調査することも大切です。特にコロナ禍においては事業再生を図る飲食店向けの支援策が拡充されているケースがあり、活用すれば初期コストを大幅に抑えられるかもしれません。長期的な視点で返済計画まで組み込んだ予算管理をすることで、安定した経営基盤を築きやすくなります。

5-4. コンセプトの見直しと強みの活かし方

飲食店の魅力を左右する大きな要素が「コンセプト」です。業態転換の際には、これをいかに練り直し、明確化するかが勝負といっても過言ではありません。たとえば、居酒屋だった店舗がランチ営業主体に転換するなら、「リーズナブルな価格で高品質な定食を提供する」などの明快なコンセプトを掲げると、新規顧客がイメージしやすくなります。

その一方で、既存の店舗が培ってきた強みを捨ててしまうのは得策ではありません。長年培った調理技術やお客さまとの信頼関係は大きな資産です。例えば和食のノウハウを活かした洋食メニューの開発や、従来の常連客向けに裏メニューを用意するなど、過去の強みを新業態に適切に組み込むことで、他店との差別化が可能になります。コンセプトを新たに設定すると同時に、自店ならではの「らしさ」をどう残すかも、綿密に検討することが成功の秘訣です。

5-5. 初期投資を抑える具体策

業態転換には何かとコストがかかりますが、すべてを新調しなくても大きな効果を得られる方法は存在します。たとえば、内装全体を大掛かりに改装するのではなく、部分的にイメージチェンジを図るだけでも空間の印象を変えることは可能です。壁やテーブル、照明などのポイントを抑えてリニューアルするだけで、予算の大幅削減につながります。

また、SNSや既存顧客への情報発信をうまく活用すれば、高額な広告宣伝費をかけずとも話題を集められる可能性があります。特にInstagramやTwitter、食べログなどの口コミサイトは、低コストでPRできる手段として有効です。さらに、あらかじめデリバリーやテイクアウトを強化する前提なら、大きな客席スペースを必要としないため、内装そのものの工事費を圧縮できる場合もあります。目的に合った投資を厳選し、費用対効果の高い施策を選ぶことが大切です。

ただし、口コミ管理はしっかりと行わないと低評価により逆効果になる可能性もあります。そこで『【完全版】口コミで悪い評価がついた時の対処方法!返信の仕方から削除依頼まで徹底解説!』を参考にしましょう。

5-6. 従業員トレーニングと教育

どんなに優れた業態コンセプトがあっても、実際に店舗を動かすスタッフがその意図を理解し、的確に実行できなければ成功は難しいです。業態転換ではメニューや接客スタイルも変わるため、従業員に対して新しいオペレーションや調理法をじっくり教育する時間を設けることが重要になります。たとえば、座学やマニュアルだけでなく、実際にロールプレイを行ってみたり、試食会を開いてスタッフ同士でフィードバックし合ったりすると、スムーズに習得できるでしょう。

さらに、従業員の意見を取り入れることで現場レベルの問題点が見えやすくなり、業態転換後の改善スピードが上がります。スタッフが主体的に動ける環境を作ることで、より顧客満足度の高い店づくりが可能です。新しい経営方針や事業目標を丁寧に共有し、同じ方向に進む仲間として信頼関係を築くことで、離職率の低下や店舗の一体感にもつながります。

5-7. マーケティング戦略の再構築

業態転換を成功させるためには、顧客に「変わった」ことを認知してもらう必要があります。店舗がリニューアルしても、従来の常連客ですら内容をきちんと把握していないケースは多々あります。そこで、SNSや店舗公式サイト、ポスターやチラシなど、多様なチャネルを活用したマーケティング戦略を再構築しましょう。

たとえば、「新メニュー試食会」や「限定クーポン」のような企画を行えば、潜在顧客の来店ハードルを下げる効果が期待できます。ターゲットがファミリー層であれば、休日のイベントや子ども向け特典を取り入れるなど、具体的な施策が考えられます。いずれにせよ重要なのは、「自店が提供する価値」と「顧客のニーズ」を正確に合わせ込むこと。あれこれ手を広げすぎず、業態転換後のコンセプトをしっかりと伝えるための戦略を打ち出すと良いでしょう。

5-8. 中長期的な事業計画策定と設備資金調達

業態転換は一度行って終わりではなく、変化し続ける市場に合わせてブラッシュアップを続ける必要があります。したがって、経営者は目先の売上アップだけでなく、数年先まで見据えた事業計画を策定することが大切です。特に、売上が安定してくるまでは追加の設備投資や広告費を投じるタイミングが出てくるかもしれません。これらに対応できるよう、資金調達や経営体力を把握し、必要に応じて補助金や助成金の活用も検討すべきです。

中長期計画の中には、店舗拡大や複数店舗展開のシナリオも考えられるでしょう。その場合、スタッフの増員や研修、仕入れルートの拡充といった要素も加わります。こうした視点を早めに組み込むことで、店舗運営がスムーズに拡張し、安定的な売上を得られる可能性が高まります。もちろん、実際に行動する中で計画が変わることはありますが、最初から大まかな方向性を描いておくことで、急なニーズ変化にも柔軟に対応できるでしょう。

業態転換後の目標管理にはKPI設計が不可欠です。詳しくは『飲食店が設定すべきKPIとは?本当に効果的な目標や指標の設定方法と活用術を徹底解説!』をご覧ください。


第6章. どんな業態に変えるべきか?具体的な業態変更の内容

どんな業態に変えるべきか?具体的な業態変更の内容

6-1. メニューの専門化

飲食店の業態転換でしばしば採用されるのが、「特定のメニューに特化する」という手法です。たとえば、カレー専門店やパスタ専門店、唐揚げ専門店などが典型例です。これは顧客に「これならこの店」と思わせる強いイメージを持たせやすいメリットがあります。専門店はブランディングがしやすく、また仕入れや調理工程を集約しやすいため、原価管理や品質維持にも有利です。

一方で、メニューが限定的になる分、「飽きられる」リスクが高いという弱点も。季節限定メニューやトッピングの変化など、定期的に新鮮さを打ち出す工夫が必要です。また、急激な需要変化があった場合に対応しにくい面もあるため、バックアッププランを用意しておくことが大事でしょう。

6-2. 夜営業から昼営業主体へ変更

コロナ禍で打撃を受けた業態の筆頭が「夜型の居酒屋」でした。そこで注目されるのが、昼営業主体への転換です。ランチタイムをメインにすると、これまで集客が弱かった昼の時間帯で売上を立てられる可能性が高まります。オフィス街や住宅街など、場所によってはランチ需要が大きいエリアがあるため、うまくハマれば顧客を安定して確保できます。

ただし、夜営業と昼営業では客層もニーズも異なるため、メニュー構成や価格帯を大幅に見直す必要があります。また、ランチタイムは回転率が非常に重要です。調理工程や接客スピードが追いつかなければ、混雑時にクレームが発生してしまいます。スタッフ体制もシフトでしっかり組み直し、昼のピークに対応できるよう計画することが成功への鍵です。

6-3. テイクアウト・デリバリー専門店

コロナ禍をきっかけに急伸したのがテイクアウトとデリバリーの需要です。外食が敬遠された時期でも、自宅で楽しめる食事として人気を集めました。テイクアウトやデリバリー専門店に転換するメリットは、客席スペースを縮小できるため家賃や光熱費を抑えられる点にあります。さらに、リモートワークや在宅勤務の広がりが続く限り、この需要は引き続き安定する可能性があります。

注意点としては、料理が持ち帰りや配達に耐えられる形態かどうかを見極めること。イートインと同じクオリティを保つのは容易ではないため、調理工程やパッケージに工夫が必要です。デリバリーサービスを利用する際には手数料もかかるので、価格設定も慎重に行わなければ利益が残りにくくなってしまいます。こうした点を踏まえ、オペレーションを最適化すれば、外食以外の顧客層をしっかり取り込めるでしょう。

テイクアウト営業時の許可取得に不安がある方は『飲食店でテイクアウト販売を始めるには許可が必要?具体的な始め方や準備・注意点を徹底解説!』も参考にしてください。

6-4. 調理以外の商品販売

飲食店でありながら、調理メニューに限らず「物販」を組み合わせるケースも注目されています。たとえば、有名店が自家製ソースやドレッシング、スイーツなどを店頭・オンラインで販売する形です。こうした商品販売を行うと、実店舗での売上だけでなく、ECサイトや地方へのお取り寄せといった多角的な収益チャネルを作ることができます。

また、調理済みの食事ではなく、食材キットを販売する方法も。自宅で調理する楽しさを提供できるため、DIY的なニーズに応えやすいです。ただし、食品衛生法や成分表示などの規制を守る必要があるため、商品パッケージやラベル表記などの細かい部分を丁寧にチェックすることが不可欠です。一度軌道に乗れば、飲食店が持つブランド力を強みにできる魅力的な事業モデルといえます。

6-5. 喫煙可能店

飲食業界では受動喫煙防止対策の強化に伴い、多くの店舗が全面禁煙や分煙措置を取っています。一方で、あえて喫煙可能店として差別化を図る店舗も存在します。愛煙家の需要は根強く、喫煙できる飲食店を求める顧客層が一定数いるためです。しかし、法律や自治体の条例で喫煙ルールが細かく規定されているケースが多く、事前に対象地域の規制を確認しておく必要があります。

また、喫煙可能店にすることで非喫煙者の顧客が離れてしまうリスクもあるため、どの程度の客数が見込めるかを慎重に判断しなければなりません。例えば完全分煙や個室喫煙など、工夫次第で幅広い層を取り込む余地はありますが、そのぶん設備投資やスペース設計にコストがかかる場合もあります。市場ニーズと規制をしっかり見極めれば、一つの独自路線として展開できるでしょう。

6-6. 多様化する出店形態

近年はフードトラックやシェアキッチンなど、固定店舗以外の出店形態も増えています。フードトラックであれば、イベントやオフィス街などを巡回しながら売上を立てることが可能です。初期投資が低く、立地のリスクを分散しやすい点がメリットとなっています。一方、雨天や寒暖差など天候に左右されやすいというデメリットもあるため、柔軟な対応力が必要です。

シェアキッチンやゴーストレストラン(デリバリー専門厨房)も、コストを最小限に抑えて新業態を試す場として注目度が高まっています。飲食店の経営者が空きスペースを貸し出しているケースや、企業が立ち上げた専用施設を利用できるケースもあり、事業として大きなリスクを背負う前に実験的にメニューを販売してみることも可能です。「固定費を抑えたい」「まずは小規模でチャレンジしたい」という店舗にとって、出店形態の多様化は心強い選択肢となるでしょう。


第7章. 業態転換に成功した飲食店の事例

実際の事例から学ぶ業態転換の成功パターン

7-1. 【鶏料理居酒屋⇒餃子酒場】

鶏料理を中心に展開していた居酒屋が業態を餃子専門の酒場へと大胆に転換し、昼夜の営業形態を両立させた事例です。もともと焼き鳥や鶏料理をメインにしていた店舗が、コロナ禍で夜の需要が急落したことを受けて「昼営業を強化しよう」という判断を下しました。そこで取り入れたのが、手軽に提供しやすい餃子を看板メニューにする戦略です。夜営業時の酒のアテにも適しているうえ、ランチ時には定食スタイルで提供可能という利点があります。

メニューを餃子に集中させることで、仕入れや調理工程を大幅に効率化し、原価率や人件費の管理がしやすくなりました。また、「餃子の専門店」というわかりやすいコンセプトがメディアやSNSで話題となり、新たな顧客層を獲得するきっかけにもなっています。こうした業態転換の成功要因は、「昼夜の需要をしっかり捉えるメニュー選定」と「専門性のある強力な看板商品の設定」にあったといえるでしょう。

7-2. 【パスタ専門店⇒居酒屋】

こちらは逆に、パスタを中心に展開していた専門店が居酒屋へ転身した例です。周辺の顧客ニーズや商圏の需要を改めて分析した結果、夜の一人飲みや軽くつまめる業態のほうが売上向上の余地が大きいと判断。そこで「おでん」や「魚介料理」をメインとした和食居酒屋に生まれ変わり、同時にテイクアウト需要にも応えられるサイドメニューを複数開発しました。

パスタ専門店から居酒屋へ変化する場合、調理技術やメニュー開発の方向性が大きく異なります。しかし、この店舗では既存の厨房設備を一部活用しながら、調理スタッフに新しい料理技術を丁寧に教育することでスムーズに移行できたそうです。これにより「ひとりでも気軽に入れる居酒屋」としての新規顧客を開拓し、コロナ禍の中でも着実に売上を伸ばすことに成功しています。

7-3. 【和食バル⇒サムギョプサル専門店】

和食ベースのバルが、韓国料理に舵を切って成功したパターンです。背景には、サムギョプサル人気の高まりがありました。コロナ禍で海外旅行の機会が激減し、国内で手軽に海外の味を楽しみたいという顧客ニーズが高まったのです。そこで、この店舗では「調理技術を必要としない」という点に着目し、サムギョプサルの提供に特化した業態に変更しました。

サムギョプサルはコンロを卓上に設置してセルフで焼くスタイルが多いため、スタッフの負荷が比較的少なく済みます。そのため、オペレーションの簡素化により人件費を抑えつつ、焼き上がりの香ばしさや写真映えといったポイントで顧客満足度を上げることができるのです。さらに、アルコールとの相性も良く、「韓国式豚焼肉」としての明快なコンセプトがSNSでも拡散され、話題を呼びました。

7-4. 【中華食堂⇒芋菓子専門店】

月商が50万円から950万円へと飛躍的な売上変化を実現させた事例として注目を集めたのが、この芋菓子専門店です。もともとは定食や麺類を扱う一般的な中華食堂でしたが、顧客の減少に伴い「インパクトのある新規事業を作りたい」という目標のもと、芋菓子の専門店へと転換しました。芋スイーツは女性客をはじめ幅広い層に人気があり、コロナ禍でもテイクアウトしやすい点が大きな武器となったのです。

店舗の内装やパッケージデザインも含めて高級感を演出し、SNS映えする商品写真を積極的に発信することで、一躍有名店へと駆け上がりました。単価が低めになりがちな飲食店とは異なり、高付加価値を提供できるスイーツ分野に挑戦したのが成功の要因と言えるでしょう。この事例は、思い切った事業コンセプトの再構築が功を奏した好例です。

7-5. 【昼だけハンバーグ専門店】

昼のランチタイム限定でハンバーグを提供する店舗が、ブランディングとイメージ戦略の徹底により注目を集めたケースです。当初は夜型の営業がメインでしたが、コロナ禍で夜の売上が激減。そこで「昼だけ営業」を打ち出し、ハンバーグにフォーカスした専門メニューを開発しました。名前のインパクトも大きく、SNSで拡散されて瞬く間に話題店となったのです。

昼のみ営業に絞ることで、調理スタッフや接客担当をランチタイムに集中投入でき、オペレーションの効率を最大化できました。さらに「幻のハンバーグ」的な希少感を醸し出すことで、行列や予約待ちを生むマーケティングに成功しています。顧客には“特別感”を、店舗側には“コスト削減”をもたらす、一石二鳥のモデルです。

7-6. 【朝だけマグロ丼専門店】

こちらは朝食需要を狙った例です。朝からマグロ乗せ放題というユニークなコンセプトが大きな評判を呼びました。通常、飲食店ではランチやディナータイムを重視しがちですが、この店舗はあえて朝食に勝負をかけたのです。狙いどおり「朝から気分を上げたい」「リーズナブルな価格で豪華な丼を食べたい」というニーズをうまく取り込み、SNS投稿を中心に話題沸騰となりました。

朝だけ営業ということで、昼〜夜の固定費を抑えられるのもメリットの一つです。厨房設備やスタッフ配置を“朝型”に合わせることで効率的な運営を実現。結果として、朝活ブームや健康志向の流れも味方につけ、新たな顧客層を開拓することに成功しています。

7-7. 【居酒屋に唐揚げ専門店を併設】

夜型営業の居酒屋に、テイクアウトを中心とした唐揚げ専門店を併設することで売上を底上げした事例です。居酒屋の客足が減った時間帯やコロナ禍の中でも、唐揚げというわかりやすく人気のあるメニューを軸に「テイクアウト需要」「昼のちょい買いニーズ」を獲得しました。調理設備を大幅に変えずに対応できる点も大きなメリットで、夜はそのまま居酒屋、昼は唐揚げ店というハイブリッド運営を実現しています。

既存スペースを有効活用し、看板やメニュー開発で“からあげ家”のブランドを打ち出すことで、新規顧客の流入を図りました。こうした「2業態併設」は、固定費の共通化やスタッフの有効活用が可能なため、リスクを最小限に抑えながら売上の幅を広げる有力な選択肢となります。

7-8. 【テイクアウト・デリバリー専門店を開発】

既存チェーン店がデリバリーやテイクアウトに特化した店舗を開発し、成功を収めた例です。伝説のすた丼屋はもともとガッツリ系の丼メニューで若者や男性客を中心に人気がありましたが、テイクアウトの需要が一気に増える中で「店舗スペースを最小限にし、オペレーションを効率化した形態」を導入。結果として、食材のロスや人件費を削減しつつ、オンライン経由の売上増を実現しました。

ポイントは「ブランド力を維持しながら、注文方法や受け取り方を変えただけ」という部分です。既存のファンを逃さないうえに、新規顧客にもアピールしやすいシステムを整えたことで、多くのエリアに波及しやすいモデルとなっています。こうしたデリバリー特化の形態は、コロナ禍以降も継続して高い需要があるため、業態転換の一つの成功パターンとして注目されています。


第8章. 業態転換の支援事業や助成金の活用を検討

業態転換支援事業・助成金を活用する

8-1. 業態転換支援事業とは?

業態転換を検討している飲食店にとって、各種の補助金や助成金は頼もしい存在です。「業態転換支援事業」とは、国や地方自治体が飲食店など特定の事業者を対象に、業態変化に伴う投資や設備更新を支援する仕組みを指します。例えば、内装工事費や新メニューの開発費、宣伝費など、飲食店が必須とする経費が一部助成されることがあるため、売上減少に苦しむ経営者にとって大きな助けになるでしょう。

コロナ禍以降は、国や自治体の支援策が拡充される傾向にあります。飲食店での売上減を補うだけでなく、「テイクアウト需要」や「オンライン販売」といった新たな取り組みを後押しする目的も含まれています。こうした補助金・助成金をうまく活用すれば、大きな初期投資が負担になりがちな業態転換を、より安定した形で進めることが可能です。

8-2. 助成金の仕組みと種類

助成金は返済不要の資金として支給されることが多く、融資とは異なるメリットがあります。一方で、申請対象や助成上限などの要件が細かく決まっており、必ず審査を通過しなければなりません。代表的な例として、地域の商工会や中小企業庁、都道府県が実施している「中小企業向け業態転換補助金」「事業再構築補助金」などがあります。飲食店も条件を満たせば対象になり得るため、経営者は積極的に情報収集すべきでしょう。

各助成金には申請条件が明確に設定されている場合があり、売上が一定割合以上減少している、事業計画を提出する、などの要件を満たす必要があります。また、助成の対象となる経費(内装工事や設備費、人件費の一部など)も個別に規定されていることが多いです。自店の業態転換プランと合致する助成金を見極め、無駄な手間をかけずに申請を行うことが大切です。

8-3. 申請対象と対象経費

助成金や補助金は、「どのような経営状態にある事業者が対象か」「どの費用が助成の範囲に入るか」が個別に定められています。飲食店の場合は、売上の一定割合の減少や、業態転換の具体的な計画の提出が求められることが多いです。たとえば「店舗改装費」「厨房設備費」「新メニューの開発費」といった経費が助成対象になることがありますが、広告費や人件費は対象外というケースも少なくありません。

また、対象経費と見なされても、「指定業者に発注することが条件」といった制限が付く場合もあるので注意が必要です。自治体独自の支援制度では、地元経済の活性化を目的として地域に根付いた事業者からの工事・仕入れに限定することも。こうした要件を事前にチェックしないと、後になって助成を受けられず予算オーバーに陥るリスクがあります。

8-4. 助成限度額と助成率

助成金・補助金は基本的に「上限額」や「助成率」が設定されています。例えば、「最大で500万円まで」「経費の2/3を助成」などのように定義されることが多いです。これは一定の範囲内でしか資金が支給されないことを意味するため、業態転換の費用全額をカバーできるわけではありません。自己資金や融資も組み合わせ、適切に財務計画を立てる必要があるでしょう。

助成率が高いほど事業者にとっては有利ですが、競争率も上がる傾向にあります。申請書類の内容や事業計画の完成度が厳しく問われるケースがあり、しっかりとした説明資料を整えなければ選考で不利になる可能性があります。逆に、助成率はそれほど高くなくとも審査ハードルが低い制度であれば、比較的申請しやすいでしょう。

8-5. 申請受付期間・助成対象期間

助成金や補助金の多くは、年度ごとや一定の募集期間ごとに申請受付が行われます。しかも人気の高い制度だと、早めに予算枠が埋まってしまうことも珍しくありません。つまり、「いつ申し込みを行うか」が大きなカギになります。受付開始時期を見逃すと、一年近く待たなければならないケースもあるので、自治体や支援機関のHPなどを定期的にチェックする習慣をつけましょう。

さらに、助成対象期間という概念にも注意してください。「いつからいつまでに実施した経費が補助の対象となるか」が明確に決まっているため、申請後に発注した工事や設備しか認められないなどのケースもあります。申請前に工事を始めてしまった場合、全く助成が受けられないリスクがあるので、スケジュール管理を厳密に行う必要があります。

8-6. 申請方法と必要書類

申請手続きは、オンライン申請や窓口への書類提出など制度によって異なります。共通して言えるのは、必要書類が細かく指定される点です。たとえば、業態転換の具体的な事業計画書、売上減少を示す決算書や試算表、見積書、発注書、内装図面など多岐にわたります。これらを漏れなく用意しなければ書類不備で審査が進まず、せっかくのチャンスを逃してしまう恐れがあります。

自治体や支援団体では、申請に関する相談窓口を設けている場合があります。提出方法や書類の書き方をガイドしてくれるほか、必要に応じて事業計画作成のサポートも提供していることがあるので、積極的に活用してみましょう。特に、初めて補助金や助成金を申請する経営者にとっては心強い味方となります。

8-7. 全体の流れと注意事項

助成金や補助金の申請から交付決定までは、以下のようなフローが一般的です。

  1. 公募情報の収集:制度の詳細や要件をチェック
  2. 書類作成・申請:事業計画書や証拠資料を準備し提出
  3. 審査・交付決定:審査を経て交付決定通知を受け取る
  4. 事業実施:実際の業態転換工事や設備導入を進める
  5. 実績報告書提出:完了後、支払証明や写真などをまとめ報告
  6. 助成金の支払い:最終確認後、助成金が振り込まれる

この流れの中で大切なのは、「やみくもに工事や購入を始めるのではなく、交付決定が出る前に大きな出費をしないこと」です。特に公的機関が行う助成事業では、契約や工事開始のタイミングがシビアに見られ、手順を間違えると助成金が受け取れなくなる場合があるので注意が必要です。

8-8. 実績報告書の提出と助成金の支払

業態転換の工事や設備導入が完了したら、最後に「実績報告書」を提出します。これは「計画どおりに事業を行った」ことを証明するために必要で、各種領収書や施工後の写真などを添付することが求められます。申請書で記載した内容との食い違いがあった場合、助成金額が減額されたり、最悪の場合は不支給となるリスクがあるので、実施内容を正確に記録しておきましょう。

報告書の内容に問題がなければ、最終的に助成金が支払われます。事業完了から支払いまでに数ヶ月かかることもあるため、資金繰りにはあらかじめ余裕を持っておくと安心です。助成金が振り込まれてからが本当のスタートでもあるので、その後の経営や売上推移を定期的にチェックし、業態転換が上手くいっているかどうかを検証していきましょう。


第9章. 飲食店の業態転換に関して寄せられる主な疑問

9-1. 「テイクアウト専門店にしたいけれど、補助金は使える?」

テイクアウト需要が増えるなかで、「飲食スペースを縮小してテイクアウト中心の店舗に作り替えたい」という声は多いです。実際、コロナ禍以降に飲食店の業態転換を支援する補助金・助成金のなかには、テイクアウトやデリバリーの設備導入をサポートするものがあります。ただし、助成の可否や金額は制度ごとに異なるため、まずは地元自治体や商工団体のWebサイトを確認し、申請要件をしっかり把握しましょう。

また、テイクアウトメインの店舗へと変化する際は、容器やパッケージング技術、配達サービスとの連携など、従来とは違う経営ポイントを押さえる必要があります。売上予測を慎重に立ててから補助金を申請することで、必要最小限の設備投資で済ませられ、失敗リスクも抑えられるでしょう。

9-2. 「業態制限って具体的にはどういうことを指すの?」

業態制限とは、「特定の場所や建物で営業できる業態に法律や条例で制限がある」という意味です。たとえば、住宅地に大規模な居酒屋や深夜営業が可能な店舗を出す際には、騒音や治安への配慮が求められるため、許可が下りない場合もあります。あるいは、飲食店全般を営んでいる建物が防火対象物に該当するなど、防火対策を強化しなければならないケースも。業態転換によって「お酒を提供し始める」「営業時間を夜中まで延長する」といった変更が生じるなら、事前に地元自治体や消防署に確認し、法的要件を満たしているかチェックすることが欠かせません。

9-3. 「補助金の申請書作成が難しいけれど、誰に相談すればいい?」

申請書作成は、業態転換を成功させるための重要ステップですが、提出書類が多く、初心者にはハードルが高いのも事実です。そうした場合は、商工会議所や中小企業診断士、行政書士などの専門家に相談するのがおすすめです。助成金ごとに提出書類のポイントや審査の傾向を熟知している場合が多いため、正しい書き方をアドバイスしてくれるでしょう。無料相談を受け付けている機関もあるので、一度問い合わせてみる価値は十分にあります。

9-4. 「常連客を失わないために、どんな工夫ができる?」

業態が大きく変わると、これまで愛用していた常連客が離れてしまう懸念は当然あります。対策としては、まず業態転換の理由や新コンセプトをきちんと伝えることが大切です。店内掲示やSNSで「こういう思いで変わります」「これまでのメニューも一部提供します」などのメッセージを発信し、できるだけスムーズに理解を促しましょう。また、常連客向けの特典を用意したり、既存メニューを“裏メニュー”として残したりするなど、従来の魅力を部分的に守る工夫も有効です。

9-5. 「業態転換後、すぐに売上が上がらなくても諦めるべきではない?」

一度リニューアルしたからといって、翌月から急に売上が劇的に伸びるわけではありません。むしろ、オペレーションが軌道に乗るまで数ヶ月かかることが珍しくないです。早々に結果を求めすぎず、定期的な客数推移のチェックや顧客アンケートの実施を通じて課題を洗い出し、小まめな改善を重ねることが大切です。業態転換は一発勝負ではなく、継続的なトライ&エラーのプロセスです。しっかりと事業計画を持って取り組み、粘り強く経営を続ければ、徐々に効果が現れるケースが多いでしょう。


第10章. 飲食店が業態転換で新たな一歩を踏み出すために

業態転換をめぐるさまざまな要素を見てきましたが、飲食店が勝ち残るためには「いかに変化を捉え、柔軟に対応できるか」が大きな分岐点となります。ここでは、最終的に意識しておきたいポイントを整理し、新しい業態へと踏み出す際のヒントを示します。

10-1. 長期視点での売上安定を目指す

コロナ禍によって顕在化したように、市場は常に変化し続けます。飲食店が業態転換を検討するときは、「今のニーズをどう満たすか」だけでなく、3年後・5年後の顧客動向も見据えることが大切です。たとえば、テイクアウトやデリバリーへの需要はコロナ禍を経て定着しつつありますが、今後さらに健康志向や時短ニーズが高まる可能性もあります。長期的に生き残るためには、店舗コンセプトやメニューを定期的に見直し、社会や顧客の変化に合わせて柔軟に調整していく必要があるでしょう。

また、長期視点では「売上の波をどうならすか」という安定化の戦略も重要です。夜型の居酒屋が昼営業を始めたり、店舗が持つスペースを活用して物販事業を併設したりするのは、事業リスクを分散し、経営を安定させる有効な手段です。飲食店が業態転換によって一時的に注目を集めても、その後リピーターを増やし、継続的な売上を確保できなければ意味がありません。長期的な視点で売上構造を再設計することが、成功を持続させるカギとなります。

10-2. オペレーションとスタッフ教育の継続的アップデート

業態転換を成功に導くためには、新たな形態に合わせたオペレーション体制の整備と、スタッフの教育が欠かせません。新メニューや新しい顧客層への対応はもちろん、調理工程や接客スタイル、予約システムなども含めて「使いやすさ」「働きやすさ」を追求しましょう。最初にマニュアルや研修を行って終わりではなく、実際に営業を続ける中で出てくる課題を取りまとめ、定期的に更新していくことで、店舗全体のクオリティが底上げされます。

さらに、スタッフが自分の意見を出し合える風通しの良い環境を作ることも大切です。経営者だけが頑張るのではなく、全員が「どうすれば顧客満足度を高められるか」を意識し、それを具体的な行動に落とし込む仕組みができれば、顧客対応の質が一段と向上します。スタッフ一人ひとりが成長することで、業態転換による新たなチャレンジを継続的にサポートできる体制を築くことが可能です。

10-3. 公的支援や助成金の情報収集は欠かさない

飲食店の業態転換には、店舗の改装や設備投資など多額の費用がかかることがあります。その負担を軽減するために、補助金や助成金などの公的支援制度を賢く活用することは大きなメリットとなるでしょう。助成金は返済不要であり、事業計画を立てる上でも「自己資金+補助金」で必要額が揃えやすくなる利点があります。ただし、申請には定められた期間や書類、条件がありますので、こまめな情報収集が欠かせません。

コロナ禍以降、支援策は従来以上に拡充され、業態転換に特化した事業や、新たにテイクアウトを始める店舗をサポートする制度も登場しています。店舗が所在する自治体や商工会議所、中小企業庁などのサイトを定期的に確認し、条件に合うものを見つけたら早めにアクションを起こしましょう。助成金は先着順の場合も多く、審査に時間がかかることもあるため、スケジュール管理をしっかり行うことが成功のポイントとなります。

10-4. 顧客ニーズを理解し続ける姿勢

業態転換の目的は、あくまで顧客に価値を提供し、売上を伸ばすことです。つまり、「顧客がどんな価値を求めているのか」を日々アップデートし続ける姿勢が重要といえます。たとえば、若い世代のSNS利用率は高く、メニューの見た目が大きな集客要素になる一方で、シニア層には落ち着いた雰囲気やサービスが好まれるかもしれません。多様化する顧客のニーズを知るには、アンケートの実施や口コミサイトのチェック、スタッフによる会話など、あらゆる場面でフィードバックを得る仕組みを作ることが効果的です。

顧客目線を取り入れてリニューアルを進めると、自然にメニューや接客の質が上がり、リピーターが増えやすくなります。逆に一度業態転換して「うちはこれでいく」と決め打ちしすぎると、市場や顧客動向の変化に乗り遅れる危険性が高まります。店舗経営は生き物であり、お客さまの声をリアルタイムに取り込みながらブラッシュアップしていくプロセスこそが、飲食店が長く愛される秘訣といえるでしょう。

10-5. 大胆な発想と慎重な準備の両立

最後に強調しておきたいのは、「大胆なアイデア」と「着実な準備」をバランスよく両立させることの大切さです。業態転換は大きな飛躍のチャンスである半面、資金繰りやオペレーションの再構築などリスクも伴います。成功事例を見てもわかるように、思いきった発想と緻密な下調べ・計画が合わさってこそ、大きく売上を伸ばす結果につながるのです。

たとえば、「餃子専門店にして昼夜の需要を取る」「朝だけマグロ丼の提供に特化する」「からあげ専門店を併設する」など、新しいアイデアにはインパクトがあります。しかし、その裏側ではメニューの試作やターゲットの再分析、スタッフ教育、助成金申請といった地道な努力が欠かせません。そこで一手一手を丁寧に積み重ねることで、安定した経営基盤を築きながらも、大胆な一歩を踏み出せるのです。


業態転換は飲食店にとって簡単な道のりではありませんが、必要な情報と正しい手順を踏み、顧客のニーズを的確に捉え続けることで成功への可能性は大きく広がります。コロナ禍という未曾有の状況をきっかけに、飲食店の形態は今まさにダイナミックに変化している最中です。こうした時代の波に乗り、店舗の強みを活かしながら新しい挑戦を積み重ねていけば、必ずや自店ならではの勝ち残り戦略を見いだすことができるでしょう。

以上で本記事は完結となりますが、ここで取り上げた事例や助成金情報なども刻々と変化しています。今後も継続して情報収集を行い、飲食店経営に役立つ最新の動向をチェックしながら、さらなる成長へとつなげていってください。

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この記事を書いた人

鵜飼 あきひろのアバター 鵜飼 あきひろ 株式会社Grill 取締役/店舗経営・集客コンサルタント

2014年にオイシックス株式会社で海外事業を担当後、香港・中国現地法人の社長に就任。
2017年に起業した株式会社Emooveでは代表として事業を成長させ売却・EXIT。
現在は株式会社Grillの取締役COOとして複数の飲食店舗を経営する傍ら、現場目線で成果の出る集客支援に取り組んでいる。
豊富な実践経験と経営視点を活かし、小さなお店の“ファンづくり”をサポートするのが信条。

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