飲食店のEC(ネット通販)の始め方完全ガイド!必要な準備や簡単な導入方法まで徹底解説!

飲食店のEC(ネット通販)の始め方完全ガイド!必要な準備や簡単な導入方法まで徹底解説!
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目次

第1章|飲食店のEC(ネット通販)が注目される理由と市場規模

飲食店ECが注目される理由と市場規模

1-1. 飲食店がECを取り入れる背景

飲食店がECを取り入れる背景には、消費者のライフスタイル変化やネット通販(以下、ネット通販とも表記)市場拡大があります。実店舗での飲食体験を好む顧客がいる一方、忙しくて店舗に行けない、遠方だから行くのが難しいという層も少なくありません。そこでECサイトを活用すれば、飲食店は全国規模で販売を行うことが可能となります。

コロナ禍以降、「店舗に行かずに食品や料理を届けてほしい」というニーズが一気に高まりました。これはEC、特にネット通販分野全体が伸びた大きな要因です。また、飲食店側も実店舗の売上が不安定になる状況を受け、「ECサイトによる新たな販路を確保したい」という切実な思いが強まりました。実店舗の価値はもちろん大きいですが、それだけに頼ると売上が天候や季節、社会情勢などの影響を受けやすいデメリットもあります。

そこでECを導入し、自社のメニューや商品をオンラインで販売する方法が注目を集めています。ECサイトを構築すれば、24時間365日「販売」できる環境が整い、幅広い顧客にアプローチできる点が魅力です。さらに自社独自のアプリを作る飲食店も増えており、注文の受注や顧客へのメッセージ配信などが一括で行いやすくなります。このように、飲食店がECへ進出する流れは今や特別なことではなく、むしろ必要性が高い新時代のスタンダードと言えるでしょう。

1-2. 市場規模と成長トレンド

市場規模と成長トレンド

食品ECやネット通販全体の市場規模は年々拡大を続けています。特にここ数年はコロナ禍が後押しし、幅広い年代の消費者がオンラインショッピングを利用するようになりました。飲食店にとっては、これまで店舗でしか提供しなかった商品を全国に届けるチャンスが生まれています。ネット上のモール型ECに出店してみると、地域の名物料理を全国に向けて販売できるというメリットも大きいです。

経済産業省などの公的調査によると、日本のEC市場はここ10年で急伸し、そのうち食品や飲食関連の商品カテゴリは最も勢いのある分野のひとつとされています。また、これまでは大手企業やチェーン店が主にECを導入していましたが、最近では個人経営の小さな飲食店でもECサイトを構築し、実店舗とオンラインを併用する「ハイブリッド型ビジネス」が増加中です。

さらに、販売手法としてデリバリー専門サービスや通信販売専用メニューを拡充する飲食店が増えたことで、競合店との価格比較も以前より容易になりました。一方で、差別化できる飲食店にとってはブランド力を上げるチャンスが広がっています。今後もEC需要は拡大し続ける見込みであり、早いうちからネット通販のシステムやアプリ、モールへの出店などを検討しておくと、長期的なビジネスチャンスを逃さないでしょう。

1-3. 飲食店ECのメリット・デメリット

飲食店ECのメリット・デメリット

飲食店がECを導入するメリットとして、まず顧客層が劇的に広がる点が挙げられます。これまで「お店が近所にある人」しか対象にならなかったところを、全国の消費者に対して通販や宅配が可能になります。また、24時間いつでも注文を受け付けられるので、昼夜問わず売上が上がる可能性があります。さらに実店舗で商品を宣伝し、ECサイトやアプリへ誘導することで、「お店に来た顧客がオンラインでもリピート購入する」流れをつくることができます。

一方のデメリットとしては、やはり価格競争に巻き込まれやすい点が大きいでしょう。ネット通販では他店との比較が容易で、同ジャンルの飲食店が多数出店しているモールやプラットフォームにおいては、価格設定や配送コストがシビアに見られます。また、食品という性質上、衛生管理や配送遅延による品質劣化などのリスク管理が必要です。顧客が実際に味を確かめられない分、信頼度を高めるための取り組み(口コミやレビュー対策、鮮度維持の方法など)にも注力しなくてはなりません。

EC導入は手軽に見えて、実はさまざまな準備を構築する負荷がありますが、店舗に頼らない収益源の確保やブランド拡散などのメリットが得られる可能性は十分に大きいです。

1-4. 必要な許認可と注意点

飲食店がEC展開をする際、必要となる許認可や手続きがあります。実店舗を運営しているからといって、そのまま全国に食品を販売できるわけではありません。例えば、調理済みの食品を販売する場合は「食品衛生法」で定められた施設基準を満たす必要があり、自治体ごとに取得すべき許可が変わります。また、商品に貼るラベル(名称、原材料、賞味期限、アレルギー表示など)も正確に表示しなければ、法令違反になるリスクがあります。

加えて、冷凍食品や菓子、レトルト商品など、カテゴリーごとに必要な許可が増える場合もあります。調理施設自体の検査が必要になるケースが多いので、EC展開前に自社のキッチンで生産可能なのか、もしくは専門工場や外部委託先を利用するのかを検討することが大切です。もしデリバリーやテイクアウトと併用するなら、保健所との連携や衛生管理マニュアルの整備も不可欠となります。

さらに、個人情報保護の観点から、ECサイト上で顧客の住所や決済情報を取り扱う場合はプライバシーポリシーやセキュリティ対策が必須です。これらの手続きを怠ると、せっかく立ち上げたネット通販事業が停滞するリスクがあります。許認可を正しく取得し、顧客に安心して注文してもらうための情報公開が重要なポイントです。

1-5. 自社ECとモール・アプリの比較

飲食店がECを始める方法としては、自社で独立したECサイトを構築するか、既存のモール型ECに出店するか、あるいはアプリを導入するかなど、複数の選択肢があります。自社ECサイトの場合、ブランディングを自由に行えて利益率も高めやすいですが、集客やサイトの管理運営を自力で行うハードルがあります。一方、モールへ出店すると初期費用を抑えて始められ、すでに多くのユーザーが集まる環境を活用できるメリットがある反面、モールの手数料やルールに従わなくてはなりません。

また、近年注目されているのが、アプリを活用したEC展開です。店舗独自のアプリを使えば、プッシュ通知で新メニューや季節限定品などを直接顧客にアナウンスできる機能が魅力です。リピート客を獲得しやすく、ポイントプログラムなどの独自サービスも展開しやすいでしょう。ただし、アプリ開発にはコストや専門知識が必要で、運用体制をしっかり確立するまでは継続的な投資が求められます。

最終的な選択肢は、店舗の規模や目標、商品ジャンルやブランディング方針によって変わります。たとえば「まずは気軽に始めたい」という飲食店ならモール出店や無料のECサイトサービスを利用する選択が有効かもしれません。一方でブランド力向上や顧客データの一元管理を重視する店舗は自社サイトやアプリを構築したほうが長期的には成功しやすいです。

1-6. 実店舗との違いとリスク

実店舗とECでは顧客との接点や販売プロセスが大きく異なります。実店舗では店員が直接コミュニケーションを取るので、商品の魅力を口頭で伝えやすい反面、営業時間以外は販売できません。一方でECサイトでは、24時間注文を受け付けられる利点がありますが、商品の品質や味を購入前に実際に試してもらうことができないため、オンライン上の情報発信や写真、レビューが必要になります。

また、ECでは配送ミスや遅延が起こるリスクがあり、場合によっては食品が劣化してしまう恐れもあります。特に生鮮食品や調理済み料理を配送する場合は、クール便や急速冷凍、真空パックなどを活用して品質を保つ方法を検討しなければなりません。実店舗での食中毒リスクとは異なる、新たなリスク管理が必須です。

さらに、競合店舗がオンライン上に多数存在するため、価格比較や口コミ評価で不利になる可能性もあります。顧客は画面上であらゆる飲食店の商品を瞬時に検討するため、「ECサイトのデザインが使いにくい」「送料が高い」などの要素が離脱の原因になりがちです。こうした点を踏まえると、EC導入に際しては「どう差別化するか」を明確にしておくことが成功へのカギとなります。

1-7. EC成功事例に見る共通点

飲食店のEC成功事例を見ると、いくつかの共通点が浮かび上がります。まずは顧客が「その飲食店の商品をオンラインでも買いたい」と思える理由をしっかり打ち出していること。たとえば、店でしか味わえない限定メニューを冷凍化して全国販売する、地元の特産食材を使ったこだわりレシピをストーリー付きで紹介するなど、他店とは異なる特徴を明確に示しています。

さらに、多くの成功事例では、単にECサイトを開設するだけでなく、SNSや広告などを積極的に活用し、オンライン上での集客に力を入れています。実店舗の常連顧客に向けて「自宅でも楽しめるキット」を販売するケースや、Instagramで商品の写真を魅力的に発信して全国の新規顧客を獲得している店舗もあります。

もう一つの共通点は、リピーター施策がしっかりしていることです。初回購入時のサンクスカードや同梱チラシに次回の割引クーポンをつける、公式アプリでポイントを貯めて再購入を促すなど、長期的に顧客との関係を構築しようとしている飲食店が多いです。こうした施策により、一度購入した顧客が継続的にオンラインストアを利用するようになり、安定した売上に結びついています。


第2章|飲食店EC(ネット通販)の始め方と具体的ステップ

飲食店ECの始め方と具体的ステップ

2-1. EC導入の全体像と必要な準備

飲食店がECを導入するにあたっては、まず全体像を把握し、どのようなステップが必要なのか整理しましょう。大まかには以下の流れになります。

  1. 商品選定と販売方法の検討:冷凍食品、レトルト、惣菜など、どの形態でオンライン販売するか。
  2. 許認可や衛生管理の確認:保健所のルールやラベル表示、配送方法などを含む。
  3. ECサイトやモール、アプリの選択・構築:自社サイトかモール出店か、アプリを組み合わせるかの判断。
  4. 決済・在庫・物流体制の整備:クレジットカード決済、在庫管理、配送業者の選定など。
  5. 集客施策の計画:SNS、広告、実店舗からの誘導などを一貫して設計。
  6. 運用開始と改善:受注から発送、顧客サポートのフローを回しながらPDCAを回す。

特に飲食店の場合、テイクアウトやデリバリーとの併用を考えることが多いため、実店舗オペレーションとの両立が大事です。従業員の作業分担や在庫管理の手間が増えるので、ツール導入や役割分担を明確にしないと、現場が混乱しがちです。

また、事前に予算をしっかりと決めることも重要です。ECサイトを立ち上げるには、ドメインやサーバー、ECシステム利用料など初期費用と維持費がかかります。モール出店なら月額料金や売上手数料が、アプリ開発では開発コストやメンテナンス費用が発生します。補助金や助成金を活用すれば一部を賄うことも可能なので、計画段階から活用の可否を検討しておくと良いでしょう。

2-2. 商品選定・保健所の認可・食品表示

いざオンラインで販売するとなると、店頭とは異なる基準やルールに従う必要があります。特に調理済みの食品や生鮮食品を取り扱う場合は、保健所の認可を取得し、法律で定められた衛生基準を満たさなければなりません。何をどのように販売するかで許認可の範囲が変わるので、「自分の店舗やキッチンで製造したものを発送していいのか」「加工場が別に必要か」などを事前に自治体に確認することが大切です。

また、ECにおける食品販売ではラベル表示が必須です。具体的には、商品名、原材料名、内容量、賞味期限、保存方法、製造者情報などを明記します。アレルギー表示も怠ってはいけません。たとえば小麦や卵、乳製品など、多くの人がアレルギーを持つ食品は特に注意が必要です。正確な表示を行わないと、万が一事故が起きた際に大きなトラブルにつながることもあります。

商品選定の段階では、ECで成功しやすい「長期保存ができる商品」や「真空パックで鮮度を保てるメニュー」にフォーカスすると管理がしやすいです。すべての実店舗メニューを同じようにオンラインで扱うのは難しいため、まずは配送しやすい商品から始めて徐々に幅を広げるとリスクを低減できます。

2-3. パッケージと配送方法の検討

パッケージと配送方法の検討

飲食店のECでは、商品の味や見た目だけでなく、パッケージや配送状態も非常に重要です。顧客は実際に店舗で商品を受け取るわけではなく、段ボールや宅配袋を開ける瞬間が初めての対面となります。そのときに「ぐちゃぐちゃに崩れていた」「汁漏れしていた」ということがあれば、二度とリピートされない可能性が高いでしょう。

パッケージを工夫するメリットは、単に見栄えが良くなるだけではありません。真空包装や冷凍パックを活用すれば、保存期間を延ばせるほか、輸送中の劣化を抑えられます。配達温度帯の管理が必要な商品は、保冷剤やドライアイスの適切な利用が不可欠です。また、破損リスクを減らすために仕切りや緩衝材を入れるなどの方法も検討しましょう。

配送業者の選定では、クール便や冷凍配送対応など機能面や料金プランを比較することが重要です。消費者は送料の高さを敬遠しがちなため、配送費用をできるだけ抑えつつ、品質管理が十分できる業者を見つける必要があります。複数社と契約して商品特性に合わせて使い分ける飲食店もあります。最終的には、顧客が商品を受け取った際に「お店と同じ美味しさを保っている」と感じられることが、ECでの成功に直結する大きなポイントです。

2-4. ECサイト構築とツール選定

ECサイトを構築する上で、選択肢は大きく分けて「自社ECサイト」「モール出店」「ASP・クラウドサービス利用」「アプリ導入」の4つが代表的です。自社ECサイトを立ち上げる場合、デザインやブランドイメージを自由に作り込めるメリットがありますが、集客やセキュリティ管理などをすべて自力で行う大変さも伴います。一方、モールへの出店は初期導入が比較的簡単で、すでに多くの顧客が集まる仕組みがあるため、売上が見込める可能性は高いです。ただしモール利用料や売上手数料がかかり、独自のルールに従う必要があります。

最近は、ShopifyやBASE、カラーミーショップといったASP(Application Service Provider)系のECサービスが人気です。プログラミングの専門知識がなくても、テンプレートを用いて比較的短期間で立ち上げが可能であり、決済機能や在庫管理などが初期搭載されています。また、独自のアプリを開発して運用する店舗も増えており、顧客管理やリピート購入施策がやりやすい点が魅力です。

ツール選定のポイントは、飲食店が扱う商品の特徴や目指す顧客層、予算、運用リソースに合わせることです。たとえば小規模な飲食店がまずはテスト的にECを始めるなら、無料や低コストのASPを使って市場の反応を見るのも一案です。ある程度売上が見込めるなら、自社のブランディングや顧客データ活用を重視して、オリジナルのECサイトを構築する道を選ぶのも有効でしょう。

2-5. デリバリー・モール・無料サイト活用術

飲食店がECに取り組む際、いきなりフル機能のECサイトを作るのはハードルが高いと感じるかもしれません。その場合、Uber Eatsなどのデリバリーサービスに登録する方法や、楽天市場・Yahoo!ショッピングといった大型モールに出店する方法を検討してみるのもいいでしょう。多くの顧客が利用しているプラットフォームには、すでに整備された決済システムや集客経路が存在するため、単独での努力よりも早期に売上を上げる可能性があります。

さらに、BASEやSTORESなどの無料〜低コストで始められるECサイト構築サービスを活用すれば、最小限の費用で試験的にオンライン販売をスタートできます。機能制限はあるものの、飲食店にとって必要最低限のカート機能や決済手段が揃っているケースが多いです。

ただし、デリバリーサービスは手数料が高めに設定されていることが多く、モール出店も出店料や売上手数料、広告費などがかかるため、最終的な利益率に影響します。無料のECサイトサービスは拡張性が限られる面もあり、将来的に大きく売りたいと考えるなら、途中で自社サイトへ移行するステップが出てくるでしょう。いずれにせよ、まずは小さく始めてみて市場の反応を見ながら徐々に規模を拡大していく、というアプローチはリスクを低減できる方法としておすすめです。

2-6. 運営フロー:受注・決済・発送・フォロー

ECを運営する上で大切なのは、注文が入ってから発送し、顧客の手元に商品が届くまでの全行程をスムーズに回すことです。まず顧客がECサイトやモール、アプリで注文し、決済を済ませます。ここでクレジットカード、コンビニ払い、PayPayなどのキャッシュレス決済など、多様な決済手段に対応していると離脱を減らせます。次に、注文情報を確認し、厨房や在庫管理システムと連携して商品をピックアップ・調理・梱包するステップへ移ります。

梱包作業は食品の種類によって大きく異なり、冷凍か常温か、液漏れのリスクなどを踏まえて資材を使い分ける必要があります。発送時は伝票の貼り間違いや発送遅延を防ぐために、一連の作業を誰が担当するかを明確にし、検品体制を整えましょう。商品到着後、何かトラブルが起きた場合(破損や品質不良など)に迅速に対応できるよう、連絡先や問い合わせフォームをわかりやすく提示しておくことも大切です。

さらに、リピート購入を促すために「ご利用ありがとうございました」のメール配信を行ったり、次回割引クーポンを同梱したりする方法もあります。特に飲食店のネット通販では「もう一度同じ味を楽しみたい」という顧客心理を刺激するリマインドが有効です。注文からフォローアップまでの流れを定期的に見直し、改善していけば、顧客満足度を高めながら安定的な売上を得られるようになるでしょう。

2-7. スムーズな立ち上げのためのポイント

飲食店がECをスムーズに立ち上げるためには、まずは「誰に、何を、どう売るのか」という軸をはっきりさせるのが最優先です。何でも売れるからといって店の全メニューを扱ってしまうと、調理や在庫管理が複雑になり、結局品質が落ちるリスクがあります。まずは売れ筋商品や保存しやすい料理にフォーカスし、それらをオンライン向けに加工・パッケージングするプロセスを確立しましょう。

次に、必要な設備や作業スペースを見直し、スタッフの教育を含めた運用体制を整えることが大切です。実店舗との兼ね合いで、どのタイミングでECの仕込みや梱包を行うか、配送の集荷時間を考慮してスケジュールを組むかなど、細かな調整事項は少なくありません。初期段階で繁忙期や休日のルーティンを固めておくと、途中で大きな混乱を招きにくくなります。

また、事前に売上予測やコスト試算を行い、どの程度の規模で販売すれば利益が出るかを把握しておくと、無理な在庫を抱えずに済みます。実店舗の客足や仕入れ状況を考慮しながら、ECの注文をどれくらい受け付けるかを調整するのも重要です。小さくスタートして軌道に乗ったら拡大するという方針であれば、リスクを抑えつつEC事業を展開できるでしょう。


第3章|飲食店のECサイトの運用方法と集客戦略

飲食店ECの運用と集客戦略

3-1. 集客チャネルの選択と施策

ECサイトやネット通販を立ち上げても、そこにアクセスする顧客がいなければ売上にはつながりません。飲食店がオンラインで成功するためには、どのように集客するかが非常に重要です。代表的な集客チャネルとしては、検索エンジン対策(SEO)、SNS活用、広告運用、実店舗からの誘導などが挙げられます。

  1. 検索エンジン対策(SEO):料理名や地域名、ジャンル名などのキーワードで検索された際に上位表示されるよう、サイト内部を最適化する。
  2. SNS活用:Instagramで商品の写真を投稿し、注文ページへのリンクを貼る。TwitterやFacebookを使ってクーポン情報を発信する。
  3. 広告運用:Google広告やSNS広告でターゲットを絞り込み、見込み客に直接アプローチ。
  4. 実店舗からの誘導:レシートや卓上POPなどにECサイトのQRコードを掲載し、店頭顧客にオンライン通販を促す。

特にInstagramやTikTokなどのビジュアル重視のSNSは、料理写真や動画との相性が良いため、ECサイトへの導線として効果を発揮しやすいです。また、実店舗で試食してもらい、「好評だった商品を後日自宅で取り寄せる」という流れも構築できます。現代ではSNSと連動した集客戦略が欠かせないため、写真や映像の撮影スキル、魅力的に見せるライティング力などが重要になってきています。

3-2. SNS・メルマガ・広告の効果的連動

SNSとメルマガ、広告を組み合わせることで、ECサイトへの継続的な集客が期待できます。まずはSNSで定期的に商品や店舗の魅力を発信し、フォロワーを集めましょう。具体的には、商品ができるまでの過程や、生産者とのコラボストーリーなど「舞台裏」を見せる投稿が好まれることが多いです。興味をもったユーザーがECサイトを訪れ、購入につながる可能性があります。

メルマガ(メールマガジン)は一度購入してくれた顧客や会員登録者へのアプローチに有効です。新商品情報や季節限定メニューの案内、セール・キャンペーンの告知などをタイムリーに配信することで、リピーターを増やすきっかけをつくれます。一方で、広告運用(リスティング広告、SNS広告など)は、まだ店舗を知らない潜在顧客へのリーチに適しています。興味・関心や地域などのセグメントを設定すれば、より高精度に見込み客に情報を届けることができます。

これらを連動させるポイントは「一貫したメッセージ」と「購入導線」です。SNSで興味を持ったユーザーがすぐにECサイトで注文できるよう、リンクやQRコードを用意しておきます。広告で店舗名や商品の特徴をアピールし、SNSで詳しいストーリーを知ってもらい、最終的にECサイトやアプリで注文するという流れを整えるとよいでしょう。

SNSの活用の仕方をもっと知りたい!と言う方は、『【2025年最新版】飲食店のSNS運用完全攻略!店舗集客に効果のある活用術を徹底解説!』も併せて確認ください。集客の効率化を最大限に伸ばしましょう。

3-3. 物流・品質管理とカスタマーサポート

飲食店ECでは、実際の商品が届いたときの品質と、その後のサポート体制がブランドイメージを大きく左右します。特に食品は消費期限や温度管理が厳しく、少しのトラブルで顧客の満足度を損なうリスクがあります。したがって、物流業者の選定は費用だけでなく機能面(クール便、冷凍便、配送速度、追跡サービスなど)を重視し、複数を比較しましょう。

商品到着後、万が一破損や劣化が見つかった場合に、すぐに交換や返金対応ができるようカスタマーサポートを用意しておくことも必要です。メールや問い合わせフォームだけでなく、電話窓口やチャットサポートを導入している飲食店ECも増えています。スムーズなサポートは「顧客満足度」を高め、リピート購入や好意的な口コミにつながります。

また、在庫管理や賞味期限管理は実店舗以上にシビアです。オンラインで大量注文が入ったときに在庫不足や製造キャパを超える事態を防ぐため、商品の生産計画と在庫モニタリングをリアルタイムで連携させるシステムを導入するのも一つの方法です。品質管理を徹底し、到着した商品が常にベストな状態であることを保証できれば、ネット通販でも店舗と変わらない信頼感を築くことができます。

3-4. リピート顧客の育成と定期購入モデル

EC運営において一度購入しただけで終わってしまう顧客が多いと、広告費や集客コストがかさみ、利益を圧迫します。逆にリピート顧客を育成していけば、安定した売上を作ることができるため、定期購入モデルや会員制サービスなどの仕組みづくりが重要です。例えば、有名ラーメン店が月に一度、冷凍ラーメンを詰め合わせて届けるサブスクリプション形式を導入している事例は分かりやすい成功例でしょう。

定期購入は、料理キットやスープ、冷凍総菜などが特に向いています。毎日の食卓をサポートできる商品を扱う場合は、「月額○○円で毎週3品の料理が届く」といったプランを組むことで、顧客の生活に組み込まれやすくなります。リピート顧客向けには特別キャンペーンや限定メニューの優先販売などを行うことで、継続率をさらに高めることが可能です。

また、ポイントプログラムやクーポン配布を活用するのも効果的です。たとえば、ECサイトで購入した顧客に対し、実店舗で使えるドリンクサービス券を提供するといった実店舗との連携が喜ばれることもあります。こうした施策を通じて、顧客との関係をより長期的に深められることが、飲食店ECの大きな強みになります。

3-5. 価格競争から抜け出すブランディング

ネット通販の世界では、「より安い商品が欲しい」というニーズが根強いのも事実です。しかし、飲食店が価格競争に巻き込まれすぎると利益率が下がり、継続的な運営が難しくなる可能性があります。そこで重要なのが「ブランディング」です。単に安価な商品ではなく、「この店の商品だから買う」「ここにしかないメニューを味わいたい」という付加価値を提供することが差別化のポイントになります。

ブランドストーリーを伝える方法としては、店舗の歴史やシェフのこだわり、地域の厳選食材を使ったレシピなどをサイト上で丁寧に紹介するのが効果的です。また、パッケージや商品写真のクオリティを高めるだけでなく、料理の背景にある物語や作り手の思いを発信することで「買ってみたい」「食べてみたい」と感じてもらいやすくなります。たとえば「創業100年の老舗が作る伝統の味」「ミシュラン星付きのシェフ考案レシピ」などのストーリー性を強調するのは典型的な例です。

このように単なる価格競争から抜け出すには、自社の商品にしかない強みをしっかり言語化し、それをSNSやECサイト、アプリなどあらゆる接点で一貫して発信することが不可欠です。結果として、多少値段が高くても買ってもらえる、成功しやすいブランドへと育てることができるのです。

3-6. 顧客データ分析とPDCAサイクル

オンラインで商品を販売する最大のメリットの一つが、顧客データを細かく取れる点です。誰が、いつ、どの商品をどのくらい購入しているか、アクセス解析からどのページが離脱率が高いかなど、実店舗では把握しきれない情報を収集できます。これらのデータを分析して、売れ筋商品の在庫を増やす、人気がない商品の改善策を検討するといったPDCAサイクルを回すことで、効率的に売上を伸ばしていくことが可能です。

具体的には、Google AnalyticsやASPサービスに搭載された分析機能などを使い、アクセス数やコンバージョン率、1回あたりの購入単価などを定期的にモニタリングします。商品ページの滞在時間が短い場合は写真や説明文が魅力的でないかもしれません。カート放棄率が高いときは、送料や決済方法に不満がある可能性があります。こうした仮説を立て、サイトの改善やプロモーション施策に落とし込むのがPDCAサイクルの流れです。

また、リピート購入率や購入頻度を追跡することで、優良顧客の特徴を分析できるでしょう。さらにアプリなら、プッシュ通知の開封率や利用状況もデータとして得られます。いずれの手法も、データに基づいて顧客との接点を改善することが狙いです。飲食店のEC展開では「美味しい商品を届ける」ことがまず大前提ですが、同時にデータを活用した継続的な改善こそが長期的な成功を支えるエンジンになります。

3-7. EC担当者・外部パートナーの活用

飲食店がECサイトを運営する際、すべてを自前でこなすのは大変です。調理スタッフやホールスタッフとは別に、EC運営を専任する担当者を置くとスムーズに業務が回りやすくなります。具体的には、商品の撮影・登録、在庫管理、サイト更新、マーケティングや広告運用、顧客問い合わせ対応など多岐にわたるタスクを管理するポジションが必要です。

もし自社リソースが限られている場合は、EC運営代行やコンサルタントといった外部パートナーを活用するのも一つの方法です。商品撮影やページデザイン、在庫管理システムの導入支援、広告運用、SNS代行などをまとめて請け負ってくれる業者が存在します。費用はかかりますが、短期間で専門的なノウハウを手に入れることができるため、立ち上げフェーズを加速させたい飲食店には有効な選択肢と言えるでしょう。

また、採用面ではEC運営の経験者を確保できれば理想的です。飲食店の実店舗運営とは異なるノウハウ(SEOや広告運用、物流管理など)が求められるので、未経験者ばかりだと試行錯誤に時間がかかるかもしれません。EC担当者や外部パートナーとうまく協力しながら、店舗スタッフ全体でECビジネスを理解し、連携していく体制づくりが成功への近道となるでしょう。


第4章|通販サイトを導入できる補助金やコスト削減の方法

補助金・費用対策と導入コストの抑え方

4-1. 初期費用を軽減するための選択肢

飲食店がECサイトを新たに構築する際、導入コストが大きなハードルになることは珍しくありません。実店舗と並行して運営を進めるなら、厨房設備や物流、在庫管理システムなど、さまざまな初期投資が必要です。そこでまず検討したいのが、初期費用を抑えるための複数の選択肢です。

1つめの方法としては、無料や低コストで始められるネット通販サービスを利用する手段があります。BASEやSTORESなどのASP(Application Service Provider)を活用すれば、サーバー契約や専門的なプログラミング知識が不要で、短期間でECサイトを立ち上げることが可能です。手数料はかかるものの、自社でゼロから構築するより低コストですし、デザインや決済機能といった基本的な仕組みを標準装備しているので、運用を素早くスタートできるメリットがあります。

2つめの方法は、モール型ECへの出店です。具体的には楽天市場やYahoo!ショッピングなど、すでに大規模な集客基盤が整備されたプラットフォームに参加する形になります。月額固定費や売上手数料などは発生しますが、開業当初から多くの顧客にリーチできるため、実店舗だけでなくECでもすぐに売上を立ち上げやすいです。デザインや顧客管理の自由度は限定されますが、宣伝・広告の仕組みが整っているため、自社で大掛かりな集客施策をする前に売上を試せる利点があります。

3つめの方法としては、外部委託や代行サービスを上手に活用する例も増えています。サイト構築だけでなく、商品撮影や受注処理、SNS運用などをパッケージで請け負ってくれるサービスもあるので、飲食店側のリソースが不足している場合には有効な選択肢といえます。導入費用は契約内容によって異なりますが、プロのノウハウを借りることで短期的にECを軌道に乗せやすくなるでしょう。

いずれの手段も一長一短ですが、最初からすべてを内製化しようとすると時間もコストも大きくかかります。ローリスクでスタートし、売上や顧客の反応を見ながら規模を拡大していく姿勢が結果的に成功への近道となるケースが多いです。


4-2. 主な補助金(事業再構築/IT導入/外食産業等)

飲食店がEC化を推進するときに頼りになるのが、国や自治体が実施している補助金制度です。近年はコロナ禍の影響から、飲食店をはじめとする中小企業の事業転換やデジタル化を後押しする補助金が増加傾向にあります。代表的なものを3つ紹介します。

1つめは、事業再構築補助金です。コロナ禍で売上が減少した事業者が、新事業や業態転換を行う際の経費をサポートする制度で、飲食店がECサイトを立ち上げる費用や設備投資にも適用される可能性があります。申請要件は比較的細かく、経営計画書の作成など手間がかかりますが、採択されれば数百万円〜数千万円単位の補助を受けられるケースもあるため、事業を大きく転換したい場合は要チェックです。

2つめは、IT導入補助金です。こちらは飲食店がPOSシステムや予約管理システム、ECサイト構築システムなど、ITを活用して生産性向上を図る取り組みを支援するものです。たとえばShopifyや独自のアプリ開発など、EC構築に関する導入費用を一定割合でカバーできるため、初期コストを減らしつつオンライン化を進めることができます。

3つめは、外食産業事業成長支援補助金など、外食産業特化の助成制度です。自治体や商工会議所が主体となり、地域の飲食店が新規ビジネス(ネット通販やデリバリー、冷凍食品製造など)に挑戦する際に活用できる枠組みが用意されています。各地域で名称や内容は異なる場合があるため、地元の産業支援機関や商工会に問い合わせてみると良いでしょう。

いずれの補助金も「使途が限定されている」「募集期間が短い」「申請書類作成に時間がかかる」といった注意点があるため、早めの情報収集と準備が欠かせません。しかしながら、これらの支援策を活用できれば、飲食店がECサイトを本格的に構築するときの負担を大幅に軽減できる可能性があります。


4-3. 小規模事業者持続化補助金の活用法

小規模な飲食店のECチャレンジをサポートしてくれる制度の代表格としては、小規模事業者持続化補助金が挙げられます。この補助金は、商工会議所や商工会が窓口となり、対象となる経費の一部を助成するものです。用途も比較的広く、「店舗改装」「チラシ作成」「ウェブサイト制作」なども補助の対象となります。飲食店がECサイトを構築したり、ネット通販に必要な機器を導入したりする際にも適用できる場合があるため、多くの店舗が活用を検討しています。

申請するには、事前に経営計画書を作成し、商工会議所などで支援を受けながら書類をまとめる必要があります。具体的な記載内容としては、「自店舗の課題」「EC化によって期待できる売上増」「販路拡大の方法」「実施スケジュールや予算」などを明確に示すことが求められます。単に「ECサイトを作りたい」と書くだけでなく、どのように顧客を獲得していくか、実店舗や地域産業とどのように連携していくかなどを丁寧に説明する必要があるでしょう。

メリットとしては、上限額が比較的高く設定される場合があり(数十万円〜100万円程度)、ECサイト構築だけでなく広告宣伝費や印刷物にも充当できる点が大きいです。デメリットというほどではありませんが、採択審査が行われるため、必ずしも申請すれば受けられるわけではなく、競争率の高い回では落選することもあります。それでも、うまく活用できれば実質的な初期投資を少なく抑えつつ、ネット通販事業に挑戦できるため、小規模飲食店には非常に魅力的な制度となっています。


4-4. 助成金とECサイト構築の事例

実際に補助金や助成金を活用してネット通販(ECサイト)を立ち上げ、成功を収めている飲食店の事例も多く存在します。例えば地方の小さな和食料理店が、コロナ禍にあわせてEC化を図ったケースがあります。事業再構築補助金を利用し、自店舗に真空包装機と冷凍設備を導入し、さらに自社ECサイトも構築しました。補助金のおかげで大きな初期費用を抑えられた結果、地元以外の顧客から「実店舗に行くのが難しいけれど、名物の味を取り寄せたい」というニーズを取り込むことに成功しています。

また、都心部で小規模に営業していたスイーツ店が、小規模事業者持続化補助金を用いてネット通販に挑戦し、全国発送を実現した例もあります。パティシエがすべて手作りしているため大量生産は難しかったのですが、補助金でパッケージ資材を整え、SNSを含めた広告宣伝費を確保したことで、限定数を設定した通販スイーツが発売日当日に完売するほどの人気商品になりました。実店舗では販売できないオリジナルフレーバーをオンライン限定で展開したり、配送用の保冷材や仕切りを工夫したりした結果、顧客からの評価も高まり、リピート購入が絶えない状態になっています。

このように助成金を活用したECサイト構築の事例を見ると、単に補助金で設備を入れるだけではなく、ブランディングや商品開発、パッケージングまでトータルで考えた店舗が成果を上げている傾向があります。飲食店にとっては、補助金をきっかけにECの可能性を広げる好機となるでしょう。ただし、助成金には報告義務や実績報告書の提出などが伴う場合が多いので、計画的に活用することが大切です。


4-5. ローンとリースなど他の資金調達手段

補助金や助成金は採択されれば心強い一方、申請しても必ず利用できるわけではなく、タイミングや要件によっては支援を受けられないケースもあります。そのため、並行して検討しておきたいのが、ローンリースなど他の資金調達手段です。

飲食店向けの融資制度としては、日本政策金融公庫の小企業向け貸付や、地方銀行・信用金庫の創業支援融資などが代表的です。ECサイト構築やアプリ開発、物流システム導入などの設備投資を行う際、これらのローンを活用して資金を確保する店舗も少なくありません。もちろん返済義務があるため、返済計画をしっかり立ててから借り入れる必要がありますが、補助金と組み合わせれば自己資金の負担をさらに軽減できます。

また、真空包装機や冷凍ストッカーなど、高価な設備を導入しなければならない場合にはリースやレンタル契約を検討するのも一つの手です。リース契約なら月々の定額支払いで機械を使えるため、一括購入よりも初期費用を抑えられます。導入後に商品が思うように売れず、使用頻度が低かったとしても、リース期間が終了すれば返却できるためリスクマネジメントにもつながります。

一方でリースやローンには、金利やリース料がかかる分、トータルで見ると購入よりも割高になる可能性もあります。補助金申請の合否の時期や店舗の経営状況を考慮しながら、バランスよく資金調達手段を組み合わせることが大切です。特にECサイト構築後、すぐに大きな利益を出せるかどうかは不確定要素が多いため、資金繰りに余裕をもたせておくと安心して事業運営ができます。


4-6. 効果的な費用試算とリスク管理

飲食店がネット通販事業を本格化する場合、必要な設備投資や広告費、物流コストなどをしっかり試算しておくことは欠かせません。補助金やローンを活用して資金を用意できるとしても、最終的に利益が出せなければ長期的な運営は難しいからです。そこでまず取り組みたいのは、売上目標必要経費を想定して損益計算を行うことです。

売上目標を立てる際には「月間受注件数」「客単価」「リピート率」などの要素を考慮し、シミュレーションしてみましょう。たとえば「月に100件の注文、客単価3,000円、利益率30%」という設定であれば、月間利益は90,000円ほどになります。この数字を基に、ECサイトの月額費用やスタッフ人件費、広告費、配送コストなどを差し引いてもプラスが残るかどうかを検討するわけです。

リスク管理の観点では、賞味期限や在庫のロスをどう最小化するかも重要です。食品は賞味期限が過ぎれば売り物にならず、廃棄ロスが直に店舗の損失につながります。実店舗とECの在庫を分けるのか、共通在庫として柔軟に運用するのかを決め、物流管理システムを導入して適正在庫を保つ方法を検討しましょう。販売促進の方法としては、在庫が余りそうなときにセールやクーポン配布で消化を促すのも効果的です。

さらに、予想以上に注文が殺到した際のキャパシティも考えておく必要があります。製造ラインや梱包スタッフが不足して対応しきれなくなると、顧客に発送遅延や品質低下を招き、ブランド評価を下げてしまう恐れがあります。こうしたリスクを踏まえ、余裕をもった設備投資や人員計画を立てつつ、補助金や融資制度を上手に活かすことが長期的な成功につながります。


4-7. コストをカバーする売上戦略

ECサイトを運営するコストをカバーするには、単発の売上だけでなく、継続的かつ安定した売上を生み出す仕組み作りが欠かせません。そのために注目したいのが、まとめ買いサブスクリプションといった仕組みです。まとめ買いでは、セット商品を作成することで客単価を引き上げられますし、サブスク型では定期的に一定の収益が見込めます。

また、ECのメリットを最大限活用するには、実店舗と連動した割引や特典も効果的です。例えば「店舗で1,000円以上の飲食をすると、ECサイトで使用できる500円クーポンを配布する」といったクロスキャンペーンを行えば、両者の相乗効果が得られやすくなります。実店舗のお客様がネット通販の顧客になり、ネットで購入した人が来店機会を得るなど、メリットが循環する仕組みが理想的です。

一方、配送コストが利益を圧迫しないように、送料設定に関しても戦略を立てましょう。一定金額以上購入で送料無料にしたり、週末限定の送料無料キャンペーンを行ったりするなど、売上アップを狙いながら配送コストも抑制する施策が考えられます。特に食品系のネット通販はクール便など追加費用が発生しやすいので、客単価を上げて1回あたりの購入数を増やしてもらう工夫が必要です。

こうした売上戦略を組み合わせることで、初期投資や広告費などのコストを回収しやすくなります。補助金やローンを使って導入した設備やシステムを無駄にしないためにも、積極的にEC独自の企画を立て、顧客を惹きつける取り組みを継続していくことが成功への鍵と言えるでしょう。


第5章|飲食店におけるEC販売の商品戦略と差別化

飲食店ECにおける商品戦略と差別化

5-1. 店舗の人気メニューをEC向けに再設計

多くの飲食店がECサイトに進出する際、まず取り組むのが「すでに人気のあるメニュー」をオンライン用に展開することです。実店舗で定番となっている商品は、ファンやリピーターが付きやすいため、ネット通販に持ち込んでも一定の需要を見込めます。しかし、実店舗で出しているそのままの形では、配送時の品質保持や賞味期限の問題が出るかもしれません。そこで必要になるのがEC向けの再設計です。

再設計の具体例としては、冷凍対応のレシピに調整する方法があります。たとえばスープやカレー、ラーメンスープなどは冷凍すると風味が損なわれにくいものの、容器やパッケージ形態を検討しなければなりません。また、麺類やパスタは半生麺や乾麺への切り替え、惣菜は真空パックなどの処理を施すことで保存期間を延ばすことができます。人気メニューをそのままECに持ち込むだけではなく、オンラインの特性に合わせて一部改良することが、品質を保つうえで大切です。

さらに、調理方法を分かりやすく説明するレシピカードを同梱したり、専用のタレやスパイスパックをセットにすることで、家でも「店舗の味」が再現しやすくなります。あえて家庭で仕上げる楽しみを残しておくことで、実店舗では体験できない「料理キット感」を演出する手法も人気です。ECサイトで販売する商品を再設計する際には、店舗との差別化を意識しつつ、「家で食べても満足度が高い形態」を追求することがリピーター獲得につながります。


5-2. 保存形態・真空包装・ギフト対応などの工夫

ECサイトで食品を販売する際、最大の課題の一つが「品質保持」です。店舗で提供する料理はできたてを食べてもらうのが当たり前ですが、ネット通販では配送に数日かかることもあります。そのため、飲食店側は商品ごとに最適な保存形態を選び、品質を維持しながら消費者の手元に届くよう工夫する必要があります。

たとえば真空包装は、酸化や腐敗を遅らせる方法として広く使われており、冷蔵や冷凍と組み合わせることで食品の保存期間を大幅に延ばせます。スープや煮込み料理、ソースなどは真空パックとの相性が良く、レトルト感覚で扱えるため、全国の顧客に「お店の味」を提供しやすくなるのがメリットです。調理の際も湯煎や電子レンジ対応が可能など、消費者にとっても手軽さが高い形態となります。

また、ECならではの需要としてギフト対応にも力を入れると、売上アップが狙えます。飲食店ならではの華やかな詰め合わせセットを作り、贈答用のパッケージやのし紙、メッセージカードを付ける仕組みを整えれば、季節の贈り物やお祝い事に選ばれる可能性が高まります。たとえばバレンタインデーやお中元、お歳暮の時期に合わせた限定ギフトセットを用意すれば、店舗名の認知拡大にもつながるでしょう。

このように食品の保存形態を見直し、ギフト用途など多様なニーズに応えられる工夫を凝らすことで、ECサイト上での販売機会を広げることができます。実店舗での提供とまったく同じではなく、「オンライン向けの仕様」に最適化する意識を持つのが成功のポイントです。


5-3. 生鮮食品・冷凍食品での品質管理ポイント

飲食店がネット通販で生鮮食品や冷凍食品を扱う際は、品質管理がさらにシビアになります。特に魚介類や肉類、野菜などは温度管理を誤ると鮮度を一気に失い、顧客トラブルにつながる可能性が高いです。そのため、通常の常温配送とは別のロジスティクス対応が必要となり、クール便やドライアイスを活用した冷凍配送など、専用の設備を整えた物流サービスを利用するケースが多くなります。

生鮮食品を売りにしている場合は、たとえば「当日朝に水揚げされた魚を即日発送し、翌日に到着する」といった超短期のサプライチェーンを構築する飲食店もあります。この方法では、地域や気候の影響で配送時間が多少前後してしまう可能性があるため、確実に対応してくれる物流会社を選ぶ必要があります。冷凍食品の場合も、解凍時のドリップを抑える工夫や、再冷凍による品質低下を防ぐ仕組みが求められます。

また、生鮮食品の販売には「要冷蔵」「賞味期限内にお召し上がりください」など、厳格な情報表示が欠かせません。ラベルの記載をミスすると思わぬクレームや法的リスクが発生する可能性があるため、取り扱い基準をスタッフ全員で統一しておく必要があります。ECサイト上でも「到着後は冷蔵庫に入れてください」「解凍の仕方」「解凍後は早めに調理してください」といった分かりやすい利用方法を掲示しておけば、顧客の不安を和らげることができるでしょう。

結果として、生鮮食品や冷凍食品の取り扱いは物流コストや温度管理コストが高めになりますが、それでも実店舗では届けられない地域の顧客に販売できる点や、競合が少ないニッチ市場を狙える点など、得られるメリットも大きいです。品質管理を徹底し、「生鮮食品であっても安心して頼めるお店」という信頼感を確立すれば、顧客ロイヤルティを高める強力な武器となるでしょう。


5-4. オンライン限定商品とブランドストーリー

ネット通販での差別化を図るうえで、オンライン限定商品を企画する方法は非常に有効です。実店舗とまったく同じメニューを提供するだけでは、顧客にとっては「わざわざ通販で買う理由」が薄くなる場合があります。そこで、ECサイト限定の味やセットメニューを作ることで、顧客に「ここでしか買えない特別感」を訴求するのです。

たとえば、カレー専門店が実店舗では出さない特別レシピのカレーセットをECサイトでのみ販売する、ラーメン店が限定スープの冷凍パックをオンライン販売するなど、レアな商品を取り揃えることで、リピーターや新規顧客の興味を引きます。こうした限定品は割高でも売れやすく、価格競争から抜け出せる利点があります。

さらに、ブランドストーリーの打ち出しはEC時代に欠かせない要素です。実店舗ならスタッフや店長が口頭で伝えられる「こだわり」も、オンラインではテキストや写真、動画を駆使していかに魅力的に見せるかが鍵となります。生産者との協業背景や食材調達の旅、メニュー開発の裏話など、顧客が「その商品を買うと物語の一部になれる」と感じるような情報をECサイトに盛り込むことでブランド力を高められます。

また、デザイン面でもロゴやパッケージ、サイト全体のトーンを統一すると、世界観が伝わりやすくなります。顧客は商品だけでなく、「おしゃれで洗練されたブランド」を買っているのだという付加価値を感じ、実店舗以上にファン化が進む可能性があります。オンライン限定商品+魅力的なブランドストーリーで、ネット通販でも独自の存在感を発揮できるでしょう。


5-5. 賞味期限管理と在庫コントロール

ネット通販では、注文が入ったタイミングで調理・包装する場合もありますが、ある程度の在庫を持っておいたほうがスピーディに発送できる商品も存在します。問題は「食品には賞味期限がある」点で、在庫管理を誤ると大量廃棄や赤字につながるリスクが高いです。そのため、賞味期限と在庫の両面から厳密にコントロールする仕組みが必要です。

一つの方法としては、在庫管理システムを導入し、ロットごとに賞味期限を入力しておくやり方があります。受注が入ると、最も古いロットから出荷するよう設定し、無駄を最小限に抑えることが可能です。特にクール便や冷凍便などに対応する場合は、温度帯が異なる商品を複数抱えることになるので、システム化しておかないと人的ミスが増えやすくなります。

また、セールやキャンペーンを活用して在庫を適切に回すのもよい手段です。賞味期限が迫っている商品を特価で販売したり、まとめ買い割引を実施して早めに在庫を消化したりする方法は、実店舗よりもネット通販のほうが導入しやすいと言われています。顧客も「お得に買えるなら試してみよう」と気軽に購入しやすく、リピーター獲得のきっかけにもなります。

在庫コントロールに成功すれば、必要以上の仕入れを抑えてコストを削減しつつ、注文が入ったら即発送できるという好循環が生まれます。ECサイトでは顧客が「すぐ届く」ことを期待しているケースも多いため、在庫管理を確立することが顧客満足度や店舗の成功に直結するわけです。


5-6. 価格設定・販売戦略の考え方

飲食店のEC展開における価格設定は、実店舗と同じ感覚では通用しない場合があります。ネット通販では配送コストも加算されますし、他店の商品と簡単に比較されやすいため、価格競争に陥るリスクが高いです。一方で、前述のようにブランドストーリーやオンライン限定商品などで差別化に成功すれば、多少高くても納得して買ってくれる顧客層を取り込める可能性があります。

まずは原価率と配送コスト、モールやASPの手数料を明確にし、最低販売価格を割り出す必要があります。そこにブランド価値や希少性などの付加価値を加味して、最終的な販売価格を決定します。たとえば、1食あたり原価300円かかるレトルトカレーをECサイトで1,000円で売る場合、パッケージコストや送料補助(客負担か店舗負担か)、手数料などを引いても十分に利益が出るのかを確認するのが大事です。

また、セット販売やまとめ買いによって客単価を上げる戦略も有効です。2個セットや3個セットで割引を行うと、顧客は送料を含めたトータルコストが下がると感じやすく、店舗側は単価が上がることで売上・利益ともに増える可能性があります。サブスクリプション型の定期購入なら、一定期間継続して収益が見込めるため、月々のキャッシュフローが安定しやすいメリットもあります。

価格競争に巻き込まれず、適正なマージンを確保するためには、「顧客がどういう理由でその商品を買うのか」という視点が重要です。ブランド力やストーリー性、希少性、調理の簡便さなどをしっかり打ち出して、「多少高くてもこの店を選びたい」と思ってもらえる販売戦略を整備しましょう。


5-7. ニッチ需要の開拓とリピーター創出

飲食店がネット通販で活路を見出す際、ニッチな顧客層を開拓する戦略は見逃せません。たとえば、ビーガン対応の総菜やグルテンフリーのパン、糖質制限用のスイーツなど、実店舗では扱いにくい分野に特化することで競合が少ないマーケットに参入できる場合があります。ネット通販なら、全国に点在するコアな需要層へダイレクトにアプローチできるので、ニッチ領域でも十分ビジネスが成り立つ可能性があります。

また、こうしたニッチ需要に応える商品はリピート率が高い傾向にあります。食事制限や食習慣に合わせた商品を作り込み、「安心して食べられる」「他ではなかなか手に入らない」と評判になれば、顧客は継続的に注文してくれるでしょう。SNSやコミュニティ内で口コミが広がりやすいのも特徴で、一定数のファンを獲得すれば安定的な売上が見込めます。

リピーター創出に向けた具体的な施策としては、ポイントプログラムランク会員制度の導入が挙げられます。購入金額に応じてポイントを付与し、たまったポイントを割引や特典と交換できる仕組みを作ると、顧客の継続購入意欲が高まります。また、メルマガやアプリのプッシュ通知を活用して、新作発表や季節限定メニューの情報を定期的に届ければ、興味をそそられたファンが積極的に注文を重ねる可能性も高いです。

このように、ニッチ需要を的確に捉え、リピーターを獲得できれば、ネット通販(ECサイト)でのビジネスモデルが強固なものになります。実店舗と異なる商品ラインナップで新しい市場を切り開くことで、飲食店の可能性はさらに拡大していくでしょう。


第6章|飲食店の通販サイト成功事例

成功事例から学ぶ具体的アプローチ

6-1. 飲食店ECの代表的成功事例

飲食店がECサイトを立ち上げ、全国的に有名になったケースはいくつも報告されています。たとえば、地方にある老舗の洋食店が、名物ハンバーグを真空パック化して冷凍保存できるようにし、ネット通販で大ヒットした事例があります。実店舗に行かないと味わえないと思われていた料理が、自宅でも再現できるようになったとあって、地方のファンだけでなく、都市部の忙しい顧客層からも注目が集まったのです。

また、高級食材を扱う飲食店がECへ参入し、希少部位の肉や高価な魚介を全国に向けて発送して成功している例もあります。普通なら現地でしか手に入らない高級食材が、ネット通販で手軽に購入できるのは消費者にとって大きな魅力です。売り手の飲食店は、普段の仕入れルートを活かしながら、特定の高級食材を数量限定で販売することでプレミアム感を演出し、価格競争から逃れて利益率を高めることができました。

こうした成功事例に共通するのは、「実店舗の強みをオンラインでも活かす」一方で、「ネット専用のサービスやメニューを作り、オンラインならではの価値を提供している」点です。顧客は「あのお店の味を家でも楽しめる」「レアな食材が手に入る」「ここでしか買えない限定メニューを食べたい」といった理由で購入を決めます。どの事例にも、ECサイトの使いやすさだけでなく、商品やブランドに惹かれるストーリー性や希少性が見て取れます。


6-2. デリバリー専用商品・EC専用メニュー開発

近年、Uber Eatsや出前館などのデリバリーサービスの普及に伴い、飲食店が積極的にテイクアウトやデリバリーを行うケースが増えています。これと同時に、ECサイトでも配達用に最適化した商品を開発する動きが見られます。一般的にデリバリーは「調理済み料理をすぐに食べる」イメージがありますが、実は冷凍や冷蔵した状態で配送し、顧客が加熱して仕上げる形式をとる飲食店も少なくありません。

具体例としては、ステーキや焼肉用にカットした生肉を下味付きで真空パックし、自宅で焼き上げるだけにした商品などがあげられます。あるいは、パスタソースと麺をセットにして、温めるだけで店の味を再現できる「おうちパスタキット」を展開する店舗もあります。これらは単なる実店舗メニューの焼き直しではなく、配送や保存を前提とした仕様になっているのが特徴です。

EC専用メニューを作るメリットは、実店舗のオペレーションに負担をかけずにオンライン限定の売上を作れる点にあります。調理のタイミングや包装形態を工夫すれば、営業時間外や暇な時間帯に集中して製造を行い、まとめて配送することも可能でしょう。顧客にとっても、「自分の都合の良いタイミングで調理・食事ができる」ので利用しやすいです。

こうしたEC専用商品やデリバリー専用メニューは、一度仕組みを整えればリピート顧客をつかみやすく、実店舗と異なる新たな市場を切り開く手段として注目されています。もちろん品質管理や包装、配送費用は課題になることも多いですが、上手くクリアすれば安定した収益源を確保できる可能性が高いです。


6-3. モール活用/自社サイト×SNS連動

ネット通販で成功している飲食店の中には、モールをフル活用するケースもあります。たとえば楽天市場やYahoo!ショッピングなどは、すでに膨大な利用者がおり、集客面でのメリットが大きいです。モール内で検索されやすい商品名やキャッチコピーを設定して上位表示を狙い、一定の実績が出てきたらモール内広告を出すなど、段階的に販売を拡大していく店舗が増えています。

一方で、独自のブランド展開を重視する店舗は、自社ECサイト自社アプリを構築し、SNSとの連動を積極的に行うやり方をとっています。Instagramで「料理のおいしそうな写真」をアップし、ストーリーズやプロフィールリンクからECサイトに誘導する手法は代表的な例です。TwitterやFacebookで新商品の情報をシェアし、顧客の口コミを広げる施策も効果的です。

モールと自社サイトを併用するパターンでは、まずモールで顧客認知を獲得し、ある程度ファンが付いた段階で自社サイトへ誘導してリピーター化を狙うという流れが多いです。モールは売上を一気に伸ばしやすい反面、手数料や店舗デザインの制約があるため、将来的には自社ブランドを確立して利益率を高める「卒モール」戦略を掲げる飲食店も見られます。

このようにECサイトをどう構築して、SNSやモールをどう組み合わせるかは、店舗の規模や販売目標、ブランディング方針によって異なります。大切なのは、いずれの手法を選んでも「オンラインでどうやって顧客を獲得し、実際に購入してもらうか」の流れをしっかり設計することです。SNSとの連動やレビュー活用、広告出稿などを計画的に行い、顧客との接点を増やしていくことで、確実に売上を伸ばせる可能性が高まります。


6-4. アプリ運用でファン層を拡大した事例

飲食店が独自のアプリを開発してEC機能を盛り込み、ファン層を拡大している事例も少なくありません。アプリを使う最大のメリットは、プッシュ通知を通じてダイレクトに顧客へ情報を届けられる点です。例えば、新商品発売やセール情報をアプリの通知で瞬時に共有すれば、SNSよりも高い確率で見てもらえる可能性があります。

実際にある事例としては、焼き菓子店が自社アプリを作り、ECサイトとの連動に成功しているケースがあります。この店舗では、アプリをダウンロードしたユーザーに対し、リリース記念クーポンを配布しました。さらに購入金額に応じてポイントが付与され、アプリ内で累積ポイントが簡単に確認できる仕組みを導入したところ、リピート率が大幅に向上したと言います。顧客はアプリのクーポンを使ってお得に買い物でき、店舗側はユーザーの行動データを分析しながらキャンペーンを最適化できるメリットが得られます。

また、アプリなら実店舗の予約やテイクアウト注文も一括管理でき、顧客データを総合的に扱えるため、CRM(顧客関係管理)を強化したい飲食店には非常に魅力的な選択肢です。ただし、アプリ開発にはコストや運用のノウハウが必要な点は留意すべきです。費用対効果をしっかり見極めながら、外部のシステム会社やコンサルタントを活用するのも一つの方法でしょう。

アプリ運用に成功すれば、自社メディアとしてのアプリが顧客との常時接点となり、プッシュ通知や会員限定オファーなどでリピート購入を促す仕組みが構築できます。ブランドコミュニティづくりにも役立つため、長期的なファン獲得を目指す飲食店にとっては大きな武器となるでしょう。


6-5. 大手チェーンから個店までの多様な成功パターン

ECサイト運営が広がる中、大手チェーン店だけでなく、個人経営の小さな飲食店も成功を収めるケースが増えています。大手チェーンはもともと大量生産・大量配送のインフラが整備されていることが多いため、比較的スムーズに全国発送やモール出店ができるのが強みです。牛丼チェーンやファミリーレストランなどが冷凍パックを販売し、実店舗のファン層をオンラインでも獲得する構図が典型例です。

一方で、個店は「量産が難しい分、限定感や手作り感をアピールできる」強みを持っています。小規模だからこそ、生産者との密な関係を打ち出し、ストーリー性を高めたり、季節ごとにメニューを変えたりと、きめ細かい対応が可能です。大手にはない独自のこだわりやオリジナルレシピが支持されれば、ネット通販でも十分に通用します。

さらに、チェーン店・個店を問わず、実店舗との相乗効果を生み出す仕組みがあるところは成功しやすいです。店舗で食べてみて気に入ったら、アプリやECサイトでリピート購入する流れを自然に作っているところは多く、店頭で提供する料理とオンライン商品をうまく差別化しているケースも目立ちます。たとえば店舗では冷凍状態の販売は行わず、EC限定で「自宅用の冷凍パック」を案内し、実際に食べた顧客がオンラインでも追加購入できるしくみを整えています。

このように、大手から個店まで幅広い業態・規模の飲食店がEC市場に参入し、それぞれの特徴を活かして成功パターンを生み出しているのが現在のトレンドです。自店の強みを再認識し、それをオンライン上でどう魅せるかを追求すれば、どの規模でもチャンスがあるといえます。


6-6. 成功の鍵:ブランディングと顧客体験

飲食店のECで最も大切なポイントは「ブランディング」と「顧客体験の最適化」です。実店舗では美味しい料理を直接提供できるため、食事そのものが顧客体験になります。しかし、ECでは写真やテキスト、パッケージのデザイン、開封したときの感動など、視覚や手触り、物語性を通じてブランドを演出する必要があります。

成功している飲食店ほど、「パッケージを開けたときの香りやデザイン」にまでこだわり、顧客に特別感を与えています。さらに料理の仕上げ方やおすすめのアレンジレシピを紹介したり、同梱物やSNSでの接点で店舗のファンコミュニティを盛り上げるなど、多角的に顧客体験をデザインしているのです。特に一人暮らしの顧客や遠方の顧客に対しては「家でも簡単にレストランの味を楽しめる」というストーリーが響きやすく、その価値をいかに可視化するかがカギになります。

また、ブランディング面では店舗のコンセプトや料理の背景を、SNSやECサイトで丁寧に伝えることが重要です。創業物語、シェフやオーナーの想い、生産者とのエピソードなどを発信することで、顧客はそのストーリーに共感し、購入意欲が高まります。価格だけを比べると高めの商品でも、そこに込められたこだわりを理解すれば納得して買ってくれるという現象がよく起こるわけです。

顧客体験を最適化するためには、「商品が届くまでのワクワク感」「届いた後の調理や食事体験」「SNSでのシェアやレビュー」といった各ステップを総合的に設計し、スムーズかつ魅力的に演出することが欠かせません。結果的にブランド力が高まれば、口コミで新たな顧客が流入し、さらなる売上拡大が見込めるという好循環に繋がります。


6-7. 失敗事例から学ぶ注意点

飲食店がECサイトを立ち上げても、必ずしも全てがうまくいくわけではありません。失敗事例に共通するのは「準備不足」や「顧客視点の欠如」です。たとえば急にネット通販を始めたものの、梱包資材や配送スケジュールの管理が甘く、商品が崩れた状態で届いてクレームが増えてしまった例があります。味は良いのに、届いた時点で見た目が台無しだと、リピートは期待できません。

また、ECサイトでまったく売上が伸びないケースでは、集客の計画が不十分だった可能性が高いです。単にサイトを作っただけで顧客が来ると思ったら大間違いで、SNSや広告、SEO、モールの検索対策などの「導線づくり」を怠れば誰も見に来ません。一方、せっかく集客できても、サイトが使いにくかったり、決済手段が限定的だったりすると、購入直前で離脱されることも多いです。

さらに価格設定を誤って赤字に陥るパターンも見られます。配送コストやECシステムの手数料、宣伝費が嵩み、思った以上に利益が出なかったという飲食店は少なくありません。実店舗と同じ感覚で価格を決めてしまうと、ネット通販ならではの追加費用をカバーしきれないことがあるため、事前の試算やシミュレーションが極めて重要です。

こうした失敗から学べるのは、事前の準備と継続的な改善がなければ飲食店ECは簡単には成功しないということです。商品開発や品質管理、配送手順、集客やブランディングなど、多方面に注意を払う必要がありますが、それらをうまく組み合わせれば実店舗では得られない大きな利益と認知度を手にするチャンスでもあります。しっかりと対策を立て、ステップを踏んで進めることが飲食店EC成功への近道でしょう。


第7章|飲食店におけるEC販売の未来と展望

7-1. EC市場の更なる拡大と飲食店のチャンス

EC市場はここ数年で大きく変貌し、あらゆる業種がオンライン販売に力を入れています。食品や飲食店向けECも例外ではなく、特にコロナ禍を経て「ネット通販で料理や食材を取り寄せる」というライフスタイルがすっかり根付いた感があります。今後もこの傾向は続くと考えられ、多忙な人々や遠方のファンをターゲットとしたネット通販(以下、EC)はますます拡大しそうです。

飲食店にとっても、ECは実店舗の売上や集客に左右されない収益源になる可能性があります。立地条件や営業時間に制約されないECサイトは、24時間いつでも全国から注文を受け付けられるため、店舗だけでは取りこぼしていた顧客層を開拓しやすいのが魅力です。地域の小さな食堂であっても、独自の名物メニューを冷凍やレトルトにして全国へ発送すれば、観光雑誌やSNSをきっかけに「一度は食べてみたい」と思うファンを取り込むことができます。

さらに、実店舗を訪れた顧客が「後日、家族や友人にも味わわせたい」と思ったときにECサイトがあれば、そのままオンラインで追加注文してもらえる流れが期待できます。このようにECは、既存顧客のリピート機会を増やし、単価アップや口コミ拡散にも貢献しやすい仕組みです。今後、EC市場全体が拡大していく中で、「まだお店に行ったことがない層」がネット通販を試す機会も増えるでしょう。特に配達スピードや冷凍技術が向上すれば、より多くの飲食店が参加しやすくなり、オンライン販売が大きなビジネスチャンスへとつながっていきます。


7-2. 新技術・DX化による運営効率の進化

EC運営は、単に「サイトで商品を売る」だけではありません。受注から決済、在庫管理、配送手続き、顧客サポートまで、実は幅広いプロセスをカバーする必要があります。近年、これらの業務を効率化・高度化するためのDX(デジタルトランスフォーメーション)が急速に進んでおり、飲食店も例外ではなく、導入を検討する価値が大いにあります。

具体的には、受注システムと在庫管理システムが自動連携し、注文が入った瞬間に在庫数がリアルタイムで更新される仕組みがあります。これにより「在庫切れなのに注文を受け付けてしまった」というトラブルを防止しやすくなります。さらに発送ラベルの自動作成や配送会社とのAPI連携を行えば、従業員が手作業で伝票を発行する手間を大幅に省けます。飲食店のEC展開では賞味期限や温度帯、個数制限などを細かく管理しなければならないため、こうしたデジタル技術が非常に役立つのです。

また、AI(人工知能)を活用したレコメンド機能や需要予測も、飲食店ECのDX化を後押ししています。顧客が閲覧した商品に合わせて「あなたにおすすめの商品」を自動表示したり、過去の売れ行きデータから繁忙期や需要の高まるタイミングを予測したりすれば、適正な仕込み量や在庫量を把握しやすくなります。結果としてフードロスを減らし、利益率を向上させる効果が期待できます。

このように新技術を積極的に取り入れることで、飲食店ECの運営効率は大きく高まります。逆に言えば、競合店が次々にDX化を進めている中、手作業やアナログ方式に頼り続けるとコスト面でのハンデが大きくなりかねません。今後はECサイトの品質や商品そのものの魅力だけでなく、運営体制のデジタル化レベルが飲食店の勝敗を分ける大きな要素となっていくでしょう。


7-3. 実店舗との融合で生まれるシナジー

ECサイトを成功に導くうえで、実店舗との融合を図りシナジーを生み出すことは非常に重要です。これまで両者が別々に存在していたのを、オンラインとオフラインを一体化させる戦略(O2O:Online to Offline)によって、相互に顧客を送り合う形が理想とされています。具体的には、以下のような施策が考えられます。

  • 店舗でのアナウンス:店頭でECサイトのQRコードを掲示し、「ご自宅でも楽しめます!」と利用を促す。
  • EC購入者向けの店頭特典:ECで商品を買った人が実店舗に来店した際、ドリンクサービスや優待を提供する。
  • 実店舗限定メニューとEC専用メニューの使い分け:店舗では調理が必要なフレッシュメニュー、ECサイトでは保存がきくメニュー、といった形で差別化する。

このように、お互いの顧客を相互誘導することで、それぞれが補完関係になりやすくなります。実店舗で料理を気に入った顧客が「遠方に住む親族に贈りたい」と思ったときに、ネット通販へのリンクがあればスムーズに注文できますし、逆にECで味を知った顧客が旅行や出張ついでに実店舗を訪れてくれるパターンも期待できるわけです。

さらに、店舗で顧客に直接ヒアリングした生の声(改善要望や味の好みなど)をネット通販の商品開発に活かすことも可能です。ECの顧客からのレビューや問い合わせで得た情報を店舗のメニューにフィードバックするサイクルを回せば、双方の価値がどんどん高まり、ブランド全体の認知度とファンの数を増やすことができます。


7-4. 消費者ニーズの多様化とパーソナライズ

現代の食品消費には、健康志向やアレルギー対応、ベジタリアン・ビーガン、宗教上の制限など、多様なニーズが存在します。これらは実店舗のメニュー選びに影響するだけでなく、ネット通販の利用にも大きく関わってきます。たとえばグルテンフリーのパンや低糖質スイーツなど、ニッチな需要が全国的に散在している場合、ECサイトでの販売が一番適しているケースが多いのです。

このニーズの細分化に対応するために注目されているのが、ECサイト上でのパーソナライズです。顧客の閲覧履歴や購入履歴、さらにAIレコメンド技術を活用すれば、一人ひとりに最適なメニューや商品の提案ができるようになります。たとえば、以前に「ビーガン料理セット」を購入した顧客には新作のプラントベースメニューをプッシュしたり、辛口カレーを好む人にはスパイス強めの期間限定商品を紹介したりと、好みに合わせたアプローチを行うことで満足度が高まりやすくなります。

また、多様化した消費者ニーズに応じたアレルギー表示や食材の産地情報をしっかり掲載し、情報を透明化することも重要です。実店舗では店員が口頭で説明できる部分も、ECサイトではテキストや画像、動画などで補完しなければなりません。特に食品アレルギーや健康管理に敏感な顧客は、細かな情報を求めるため、充実したコンテンツを用意すると信頼度が高まります。

こうしたパーソナライズや情報開示を強化することで、飲食店ECは単なる「通販サイト」ではなく、顧客が安心してリピート購入できるプラットフォームへと進化します。特に他店舗にはない専門性やこだわりを打ち出せれば、差別化に成功し、広い市場で特定のコアファン層を獲得するチャンスが生まれるでしょう。


7-5. 継続的改善とブランド価値の創出

飲食店ECを長期的に成長させるうえで、大切なのは継続的な改善ブランド価値の創出です。ECサイトは一度立ち上げて終わりではなく、顧客の声やデータ分析の結果をもとに、定期的に商品ラインナップやサイトデザインを見直す必要があります。新商品を投入するだけでなく、レビューの評価が低かった商品を改善したり、ヒット商品を増産したりと、PDCAサイクルを回すことが欠かせません。

ブランド価値の面では、「お店の理念やストーリー」を軸に、顧客が共感できる体験を提供する取り組みが重要になります。SNSやブログ、メルマガを使って、レシピ開発の裏話や生産地でのこだわりを定期的に発信したり、ファンミーティング的なオンラインイベントを開催したりするのも一つの手段です。実店舗とECの垣根を越え、「このブランドが大好き」というコミュニティを作れれば、価格競争に流されない強固なリピーターを確保できます。

また、ブランド価値を高めるうえで無視できないのが、顧客満足度口コミの力です。ECサイトで購入した顧客が「とても丁寧な梱包だった」「味が店舗と変わらず美味しかった」「問い合わせ対応が素早い」など、ポジティブな体験をSNSやレビューサイトでシェアしてくれれば、新規顧客の獲得にもつながります。逆にネガティブな評判が広がると、ブランドイメージの回復に多大なコストと時間がかかるため、普段から運用品質を高める努力が必須です。

このように、継続的な改善を通じて顧客満足度を高め、唯一無二のブランド価値を築き上げることが、飲食店ECを未来にわたって強くする最善策といえるでしょう。


7-6. グローバル展開の可能性

日本国内での販売にとどまらず、海外向けに商品を輸出する「越境EC」の可能性も視野に入れる飲食店が増えています。特に近年は、日本食ブームが世界各地で巻き起こり、和食や日本の食材に興味を持つ外国人が急増しているためです。寿司やラーメン、スイーツなどの認知度は高く、「本場の味を取り寄せたい」というニーズが存在します。

越境ECを行うには、国や地域による食品輸入の規制や関税、配送にかかる日数の問題など、クリアしなければならないハードルがあります。冷凍技術が発達したとはいえ、長距離輸送で品質が損なわれやすい商品もあるため、選ぶメニューや包装方法の検討は慎重に行う必要があります。また、現地言語での表示やカスタマーサポートをどうするかといった課題も発生します。

しかし、それらの課題を乗り越えれば、新たな市場でブランドを確立し、大きな売上を見込むことができます。海外では「日本製は高品質」というイメージが根強いので、適切なマーケティングを行えば高級路線での成功も期待できるでしょう。たとえば、海外の百貨店でのポップアップ出店と連動した越境ECを展開し、期間限定で限定商品を販売するなど、独自の手法も考えられます。

グローバル展開に成功すれば、国内市場だけを相手にしていたころには想像できなかった規模でのビジネス展開が可能となります。輸出や海外向け物流のノウハウを持つパートナー企業と提携し、広い視野で戦略を練っていくことで、飲食店ECの可能性はさらに広がっていくでしょう。


7-7. 今後の課題と飲食店オーナーへの提言

飲食店ECには大きな成長可能性がある一方、いくつかの課題も抱えています。まず、食品を扱うがゆえに、配送トラブルや衛生面のリスク管理には常に注意を払わなければなりません。また、テクノロジーが急速に進歩する中で、ECサイト構築やDX化に不慣れなオーナーにとっては、初期のハードルが高いと感じることも多いでしょう。

さらに、競合店舗の参入が続々と増えているため、価格競争や顧客争奪戦は激化する可能性があります。店舗独自のブランディングや商品開発、顧客体験の設計を強化しないと、数多くの「似たような商品」の中に埋もれかねません。実店舗を大事にしながらオンラインも強化するのは簡単ではないですが、長期的な視点で「実店舗とECの融合」を考えることが不可欠です。

飲食店オーナーへの提言としては、「小さく始めて改善し続ける」ことをおすすめします。いきなり大規模なEC投資をするのではなく、無料ASPやモール出店で少しずつネット通販に慣れ、顧客の反応を見ながらサイトや商品のクオリティを上げていくやり方がリスクを抑えやすいです。また、補助金や助成金、ローンなどを適切に活用して資金調達を行い、新技術を導入する余地を残しておくと、将来的な拡張性を確保できます。

最終的には、「この店から買って良かった」「また頼みたい」と思ってもらえるブランド体験を作り上げることがゴールになります。実店舗とオンライン双方の強みを活かし、消費者ニーズに柔軟に応えられる飲食店こそが、これからのEC時代をリードしていくでしょう。

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この記事を書いた人

鵜飼 あきひろのアバター 鵜飼 あきひろ 株式会社Grill 取締役/店舗経営・集客コンサルタント

2014年にオイシックス株式会社で海外事業を担当後、香港・中国現地法人の社長に就任。
2017年に起業した株式会社Emooveでは代表として事業を成長させ売却・EXIT。
現在は株式会社Grillの取締役COOとして複数の飲食店舗を経営する傍ら、現場目線で成果の出る集客支援に取り組んでいる。
豊富な実践経験と経営視点を活かし、小さなお店の“ファンづくり”をサポートするのが信条。

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