飲食店の労働時間の基本!押さえるべき基礎知識と効率化のポイント!

第1章 飲食店こそ厳守すべき「労働時間管理」の重要性

飲食店の現場は長時間営業や繁忙タイムが特定の曜日や時間帯に集中しやすいものです。仕込み作業や片付け、深夜のレジ締めなど「営業時間外」にも何かと手がかかるため、ついスタッフの労働時間が不透明になりがちです。しかし、労働者(従業員)にとっては1日8時間・週40時間といった法定労働時間のルールが存在し、それを怠ると残業代の未払い請求を受けたり、労働基準法に違反したとして労働基準監督署から是正勧告を受けたりするリスクがあります。
1-1. 労働時間の管理が経営リスクとスタッフ満足度に直結する
労働時間管理をきちんと行うと、スタッフが安心して働ける環境を整えやすくなります。逆に怠っていると、残業代不足によるトラブルや長時間労働での疲弊が顕在化し、経営に大きなダメージが及びます。労務問題がSNSなどで拡散されると、店舗やブランドの評判が急落するケースも少なくありません。
筆者体験談:残業代問題
1-2. 飲食店特有の労働時間の偏り
飲食店は平日のランチタイムや週末のディナータイムなど、一部に業務が集中する時間帯があります。実際には「週末は12時間連勤して平日は4時間だけ」といったシフトもあり得るため、法定労働時間や割増賃金の考え方が複雑になりやすいのです。
1-3. データで見る他業界と比較した飲食業界の残業・離職率
厚生労働省の調査や業界団体のデータによると、飲食業は他の小売業やサービス業と比べても残業時間が長い傾向にあり、離職率も高めと言われています。長時間労働での疲労や生活リズムの乱れが原因となり、せっかく育てたスタッフが辞めてしまえば、店舗の安定運営に支障をきたすことは言うまでもありません。
労働時間管理の見直しに併せてオペレーション改善を考えている方は、『飲食店のオペレーションを劇的に効率化!マニュアルの作成方法まで徹底解説!』の記事をご覧ください。
第2章. 飲食店経営者が押さえておきたい「労働時間」の基礎
飲食店の労働時間に関する法律は、「労働基準法」という専門の法令で細かく定められています。ただし、経営者がすべてを完璧に暗記する必要はありません。ここではトラブルを回避するために最低限押さえておきたい5つのルールを解説します。
2-1. 1日8時間・週40時間が基本——小規模飲食店は「週44時間」も可能
労働基準法では、1日8時間・週40時間が法定労働時間の上限とされています。飲食店もこの原則に従うのが基本ですが、特例措置対象事業場といって、従業員数が10人未満の小規模店舗であれば週44時間まで認められる場合があります。
筆者の実践談:特例措置
ただし、週44時間を適用するには「業種や人数」など細かい要件があるので、必ず事前に確認が必要です。
2-2. 時間外労働と36協定:残業代25%割増はどこから始まる?

法定労働時間(1日8時間・週40時間、あるいは週44時間特例)を超える時間外労働を命じる場合は、原則として25%以上の割増賃金を支払う必要があります。また、残業をさせるためには労働者代表と36(サブロク)協定を締結し、労働基準監督署に届け出なければなりません。
もし36協定を結ばずに時間外労働をさせると、「違法残業」として是正勧告の対象になる場合があります。たとえ「残業代を支払っているから大丈夫」と思っていても、協定そのものを結んでいないと労基法に抵触するリスクがあるのです。
数字で見る残業代のコスト
例えば時給1,000円のスタッフが1日1時間余分に働くと、1.25倍の1,250円が1時間ごとに発生します。週5日で月20日働けば、1ヶ月で1,000円×1.25×20=25,000円分の割増が必要になります。残業が多いほどコストは雪だるま式に増えるため、計画的なシフト管理が欠かせません。
2-3. 繁忙日と閑散日を調整する「変形労働時間制」とは?
繁忙期と閑散期の差が激しい飲食店に向いているのが「変形労働時間制」です。1か月単位の変形労働時間制では、月全体で週40時間(または44時間)の平均を守る限り、一部の週で超過してもOKとみなされます。例えば、月初の週は30時間、月末の週は50時間勤務というような波があっても違法にはなりません。
2-4. 週単位の非定型的変形労働時間制——さらに柔軟に働かせる仕組み
土日のみ異常に忙しいなど、1週間単位で労働時間を大きく変動させたい場合は「週単位の非定型的変形労働時間制」を検討します。これにより、1日の労働時間を最大10時間まで延ばし、週合計が40時間以内に収まれば残業代は発生しません。
ただし、この制度を導入すると週44時間特例が同時に使えなくなる点に注意が必要です。また、スタッフから「週によって時間が違いすぎる」「急に10時間勤務を入れられるの?」と戸惑われるケースもあるため、事前の説明と合意が重要になります。
2-5. 休憩時間と休日のルール——1日8時間を超えたら休憩1時間
労働基準法では、6時間を超える労働には45分、8時間を超える労働には1時間の休憩を与えなければなりません。また、休憩は労働時間の途中に設定し、スタッフが「自由に使える時間」であることが必要です。
さらに週1日の休日付与も原則として義務づけられています。飲食店では日曜や祝日が稼ぎ時になる場合もあるため、シフト制で休みを振り分ける工夫が不可欠です。休みが取れない状態が続くと、いわゆる「ブラック」な労働環境としてスタッフが辞めてしまい、店舗運営が困難になる事例が後を絶ちません。
第3章. 労働時間のトラブルを防ぐために飲食店が今すぐやるべきこと
実際に起こりやすいトラブルの代表格としては「未払い残業代」「休日不足」「違法に長時間働かせる」などが挙げられます。これらを回避するためには、特例措置の活用とシフト管理、そしてスタッフへの周知がポイントです。
3-1. 特例措置対象事業場を正しく把握する——週44時間を使いこなす
従業員が10人未満の飲食店では、週44時間まで法定労働時間を延長できる特例措置があります。これを知らずに毎回「8時間を超えたら即残業代」という感覚で運用していると、本来は割増賃金不要でシフトを組める時間帯まで残業扱いにしてしまい、経営者にとって余計なコストが発生しかねません。
筆者体験談:
この特例を使う際には、「従業員数のカウント方法(パート・アルバイト含む)」「店舗がサービス業に該当するか」などを正しく確認しておきましょう。
3-2. 週単位の非定型的変形制を導入するならここに注意

もし週末に集中して長時間営業するスタイルが確立しているなら、1週間単位の非定型的変形労働時間制が有効です。しかし、周知不足だと「今週は10時間勤務が多いのに、来週は4時間ばかり…」とスタッフが混乱しやすい面もあります。労働条件通知書や就業規則に明確に記載し、店長や労働者代表から説明を行ってから導入しましょう。
事例:レストランの場合
3-3. スタッフへの周知とシフト管理がすべての鍵
法制度を知っていても、経営者や店長がひとりで理解しているだけではトラブルを防げません。スタッフ全員に「うちは週44時間特例を使っている」「変形労働時間制をこう導入している」といった情報を周知し、納得してもらうことが肝要です。
3-4. 休日・休憩を軽視すると起こるリスクと解決策
繁忙日の業務が終わらず、「休憩時間を削ってでも店を回さないといけない」と考えてしまうオーナーは少なくありません。しかし、休憩を与えない状態が常態化すれば、スタッフは疲弊し早期離職の要因になります。労働基準法違反で罰則が科される可能性もあるため、最低でも週1回以上の休日と、1日8時間を超える勤務には1時間の休憩を確保しましょう。
スタッフ満足度と接客品質向上を考えるのであれば、『飲食店での好印象な接客の極意を徹底解剖!リピーターを獲得する理想の対応方法!』の記事が参考になります。
3-5. 外部リソースを活用して労務トラブルを未然に防ぐ
労働基準法や36協定、変形労働時間制など、飲食店の労務管理には専門知識が必要です。経営者や店長が一から調べるのは相当な負担がかかります。そこで、社会保険労務士や弁護士に相談したり、勤怠管理システムを導入したりして、プロの知見を借りるのも一つの手です。
筆者体験談:勤怠管理ツール
第4章. 労働時間になる?ならない?飲食店で問題になりやすい具体的な事例
飲食店では、「これって労働時間に含まれるの?」とスタッフから疑問をもたれるケースが少なくありません。朝礼やユニフォームへの着替え、まかないを待つ時間など、曖昧にすると未払い残業代請求につながるリスクがあります。ここでは代表的な3つのケースを解説し、何がポイントとなるのかを整理します。
4-1. 朝礼の時間——業務指示や連絡がある場合は基本的に勤務扱い
朝礼は、メニュー変更や予約情報など“業務上必要な指示”を行う場合は労働時間としてカウントします。スタッフが「来客予測」「売上目標」などの説明を受けるのであれば、それは自由時間とは言い難いからです。
もし朝礼が完全に自由参加の雑談程度で、業務指示や報告が一切ないなら勤務外と見なせる可能性もありますが、実態として業務連絡があるなら未払い残業代のリスクを避けるためにもタイムカード打刻を徹底しましょう。
4-2. 着替えの時間——店側が制服を強制するなら要注意

飲食店では衛生面から「必ず店内でユニフォームに着替える」よう求めるケースが多いですが、店舗管理のユニフォームへ着替える行為は労働基準法の考え方では労働時間と判断されることがあります。1日わずか5分でも月単位・年単位で計算すると残業代が積み重なるため、着替えの扱いを曖昧にしていると後にまとめて請求される可能性があるので注意が必要です。
4-3. まかないを作ってもらうのを待っている時間——「休憩」でないなら勤務
「まかない」が支給される飲食店では、スタッフが食事をとるまでの待機時間が休憩か労働かで揉めることがあります。まかない調理が実質的に仕込みを兼ねていたり、店長から指示を受ける状態で自由に動けないなら労働時間として判断されることが多いです。
逆に、完全に自由時間として過ごせるのであれば「休憩」に該当し得ますが、少しでも業務対応を強いられる状況なら休憩とは言えない点を覚えておきましょう。
第5章. 飲食店で労働時間を管理する際のポイント

飲食店でトラブルを回避するには、スタッフが納得できる形で勤務条件や休憩、残業代の計算方法などを明確にする必要があります。特に労働時間については、就業規則を作り込むことと、スタッフの希望や法定労働時間を踏まえたシフト管理が重要です。
5-1. 就業規則を作成して周知を徹底する
飲食店であっても、スタッフが10名を超える場合には就業規則の作成が義務になります。10名未満の場合でも、労務管理上のトラブルを防ぐには就業規則を整備しておく方が望ましいでしょう。
就業規則には、労働時間・休憩・休日・残業代の算定方法などをわかりやすくまとめます。スタッフにとっては「自分の働き方や時間外労働の取り扱いがどうなっているか」が明記されるので安心感が増し、経営者としても「ルールに基づいて運用している」という正当性を示せるメリットがあります。
5-2. 精度の高いシフト管理を行う——デジタルツールで可視化を
飲食店では仕込みや接客が時間帯によって大きく変動し、残業が発生しやすい原因にもなります。そこで、スタッフの出勤希望・休暇希望をクラウド上で管理できるシフト管理ツールを導入すると、以下のようなメリットが生まれます。
- 休暇申請やシフト交換がスムーズ: スタッフ間の調整がしやすい
- 残業状況が可視化される: 誰が何時間働き、どこで超過しているのか一目で把握
- 給与計算との連動: 未払い残業を防ぎやすく、計算ミスが起きにくい
筆者自身、クラウドシフト管理システムを導入した結果、タイムカードの打刻漏れが激減し、スタッフからも「休みを取りやすい」「シフト希望が通りやすい」と好評でした。
第6章. 飲食店の労働時間管理についてよくある疑問と回答
6-1. Q:新人スタッフが研修中なら残業代は払わなくてもいい?
A: 研修中であっても実質的に業務に従事しているなら、通常の労働とみなされます。法定時間を超えれば残業代を支払う必要があり、時給を研修価格に下げるなどの独自ルールは法令違反の可能性が高いので要注意です。
新人教育の方法を詳しく知りたい方は、『飲食店の新人教育の完全マニュアル!店舗スタッフに必要な接客や仕事の研修方法を徹底解説!』の記事を参考にどうぞ。
6-2. Q:法定休日を必ず日曜日にしなきゃいけない?
A: 法律上、週1日以上の休日を与えれば問題ありません。必ず日曜である必要はなく、店舗の営業スタイルに合わせて平日や別の曜日に設定しても構いません。ただし、スタッフに分かりやすい形で休日を明示し、シフト表などで共有することが重要です。
6-3. Q:バイトはシフト制だから36協定はいらないのでは?
A: シフト制かどうかは関係ありません。法定労働時間を超えて時間外労働をさせる可能性があるなら、36協定を結び、労働基準監督署へ届け出が必要です。残業が発生しない期間があっても、万一に備えて協定を締結しておくのが安全策です。
6-4. Q:みなし残業を設定しておけば実際の残業代は支払わなくていい?
A: みなし残業でカバーされる時間を超過した分には、追加の割増賃金を支払う義務があります。固定残業代の制度を導入する場合も、何時間分のみなし残業なのかを明示し、超えた部分は別途計算するルールを整備しておきましょう。
6-5. Q:休憩中に電話番を任せるのは問題ない?
A: 電話対応など業務指示に従う必要があれば、実質的に休憩とは認められません。休憩は“完全に仕事から解放される時間”が要件なので、電話番やレジ対応を命じられる状態だと労働時間扱いになり、残業代や時間外手当の対象となる可能性があります。
第7章. 労働時間管理を徹底して飲食店経営を安定させよう!

ここまで解説してきたように、飲食店の労働時間管理は法令遵守だけでなく、スタッフの満足度や定着率、さらには店舗イメージを左右する非常に重要なポイントです。トラブルを未然に防ぐためには、週44時間特例や変形労働時間制などの制度を正しく理解し、36協定や就業規則を整備したうえでスタッフと共有する必要があります。無理なシフトや休憩不足を招かないためにも、デジタルツールで勤怠状況を可視化するなど、実務レベルの対策を進めることが大切です。
飲食店の経営者が労働時間をしっかり管理すれば、スタッフは安心して働き続けられ、サービス品質が向上し、結果としてお店の評価や売上にも良い影響が出ます。人手不足やブラックのイメージに悩む飲食業界だからこそ、法令順守と働きやすい環境づくりが“勝ち残る”ための鍵となるでしょう。飲食店 労働時間