個人事業主でも単発アルバイトを雇うのは可能?必要な手続きと注意点を徹底解説!

個人事業主でも単発アルバイトを雇うのは可能?必要な手続きと注意点を徹底解説!
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「繁忙期だけ、誰か手伝ってくれたら…」 「このプロジェクト、一人じゃ到底無理だ…」

個人事業主として活動していると、このように一時的な人手不足に直面する場面は少なくありません。私自身、Web制作の個人事業主として独立した当初、大規模なサイトリニューアル案件を受注した際、コーディング作業を手伝ってくれるアシスタントが喉から手が出るほど欲しいと感じた経験があります。

そんな時、非常に便利なのが「単発でアルバイトを雇う」ことです。

しかし、「1日だけだから」「簡単な契約で大丈夫だろう」と安易に考えてしまうと、後で大きなトラブルに発展する可能性があります。実際、私の知人である飲食店オーナーは、源泉徴収を怠ったことで税務調査の際に指摘を受け、延滞税を含めて数十万円の追徴課税を支払うことになりました。

この記事では、過去の私の失敗談や専門家のアドバイスを交えながら、個人事業主がアルバイトを雇う際に必要な知識と手続きを、誰にでも分かるように徹底解説します。

契約形態の選び方から、具体的な雇用手続き、税金や社会保険の処理まで、この記事一本で全ての疑問が解決できるように構成しました。適切な知識を身につけ、安心してアルバイトを雇うための一歩を踏み出しましょう。

目次

第1章. 雇用契約と業務委託契約、アルバイトを雇うならどっちがおすすめ?

第1章. 雇用契約と業務委託契約、アルバイトを雇うならどっちがおすすめ?

初めてアルバイトを雇う際、最初の分かれ道が「雇用契約」と「業務委託契約」のどちらを選ぶかです。この選択を誤ると、税務や労務上のリスクを抱えることになります。まずは、両者の本質的な違いを正確に理解しましょう。

1-1. アルバイトを雇う契約形態を分ける「指揮命令関係」

契約書に「業務委託契約書」と書いてあれば大丈夫、というわけではありません。税務署や労働基準監督署は、契約書の名称ではなく、仕事の実態で判断します。その最も重要な判断基準が「指揮命令関係」の有無です。

  • 雇用契約:
    • あなた(事業主)がアルバイトに対し、業務の進め方や時間、場所などを具体的に指示し、アルバイトがそれに従う関係。指揮命令関係が「ある」状態です。
  • 業務委託契約:
    • 特定の業務の「完成」を目的とし、仕事の進め方や働く時間・場所は、原則として受託者(フリーランスなど)の裁量に委ねられる関係。指揮命令関係が「ない」状態です。

業務委託での失敗談

私もWeb制作の仕事で、あるデザイナーに「業務委託」としてロゴ作成を依頼したことがあります。しかし、制作過程で「この部分はもう少し太く」「明日の10時までに3パターン提出して」と細かく指示を出してしまいました。これは実質的な指揮命令にあたり、税務上「給与」とみなされる可能性が非常に高い危険な行為でした。幸い問題にはなりませんでしたが、それ以来、業務委託の場合は完成物のイメージ共有に留め、プロセスには口出ししないよう徹底しています。

端的に言えば、「手足」としてアルバイトを雇うなら雇用契約特定の成果物を納品してもらうなら業務委託契約と考えると分かりやすいでしょう。単発アルバイトを雇う場合、多くは「〇月〇日のイベントで、〇時から〇時まで、この場所で、こういう作業を手伝ってほしい」という依頼になるため、雇用契約に該当するケースがほとんどです。

1-2. アルバイトを雇う際の 雇用契約 vs 業務委託契約 比較表

アルバイトを雇うにあたり、両者の違いをより明確にするために、以下の比較表で整理しました。ご自身のケースがどちらに近いか、チェックしてみてください。

スクロールできます
比較項目雇用契約(アルバイト)業務委託契約(フリーランスなど)
契約の目的労働力の提供仕事の完成・業務の遂行
指揮命令関係あり(時間・場所・業務内容を指示)なし(仕事の進め方は受託者の裁量)
報酬の性質給与(労働時間に対する対価)報酬(成果物・業務遂行に対する対価)
労働基準法の適用あり(最低賃金、労働時間、休憩など)なし
源泉徴収必要(給与として源泉徴収)原則不要(※報酬内容による)
社会・労働保険条件を満たせば加入義務あり(特に労災保険)原則加入義務なし
消費税不課税課税対象(受託者が課税事業者なら)

【この章の実践チェックポイント】
これからアルバイトを雇う相手に、仕事の進め方や働く時間を細かく指示する予定ですか? 「Yes」なら、それは「雇用契約」です。

第2章. 初めてでも安心!個人事業主が単発アルバイトを雇う5ステップ完全ガイド

第2章. 初めてでも安心!個人事業主が単発アルバイトを雇う5ステップ完全ガイド

単発でアルバイトを雇う際の契約が「雇用契約」にあたると判断できたら、次はいよいよ具体的な手続きに進みます。「単発だから」と省略せず、正しいステップを踏むことが、後のトラブルを防ぐ最大の防御策です。ここでは、私が実際に行っている5つのステップに沿って解説します。

2-1. STEP1: アルバイトの「雇用条件」の明確化

良い人材としてアルバイトを雇うため、、そして後の「言った・言わない」トラブルを防ぐために、募集を開始する前に雇用条件を具体的に固めておきましょう。曖昧な表現は応募者の不安を煽り、ミスマッチの原因となります。

実際のアルバイト経験者の声

「『簡単なPC入力』とだけ書かれていた求人に応募したら、専門的な会計ソフトへの入力作業で全く歯が立ちませんでした。時給は魅力的でしたが、業務内容はできるだけ具体的に書いてほしいです。」(30代・主婦)

最低限、以下の項目は明確に決めておきましょう。

  • 業務内容:誰が読んでも作業内容がイメージできるように具体的に。「イベント会場での受付・案内」「梱包・発送作業」「Webサイトの画像差し替え作業」など。
  • 勤務日時:〇月〇日(〇) XX:XX~XX:XX
  • 勤務場所:住所や最寄り駅からのアクセス
  • 休憩時間:労働基準法で定められています(後述)。
  • 報酬額:時給または日給。金額を明記します。
  • 交通費:支給の有無、上限額(例:実費支給、一律1,000円まで)
  • 支払方法と支払日:当日現金払い、後日銀行振込など。

2-2. STEP2: 「雇用契約書(労働条件通知書)」の作成

アルバイトを雇う上で、口約束はトラブルの元です。単発・短期のアルバイトであっても、労働条件を明記した書面を交わすことが法律で義務付けられています。正式な「雇用契約書」でなくとも、労働条件を明記した「労働条件通知書」を交付すれば問題ありません

厚生労働省のウェブサイトには、モデルとなるテンプレートが用意されているので、これを活用するのが最も安全で効率的です。

最低限、以下の項目は記載しましょう。

  • 契約期間
  • 就業場所、業務内容
  • 始業・終業時刻、休憩時間、休日
  • 賃金の決定、計算・支払方法、支払時期
  • 退職に関する事項

2-3. STEP3: 提出してもらう「必要書類」の準備と管理

2-3. STEP3: 提出してもらう「必要書類」の準備と管理

アルバイトを雇う当日、または事前に以下の書類をアルバイトの方に準備・提出してもらいましょう。

  • 本人確認書類のコピー:運転免許証やマイナンバーカードなどの写し。本人確認のために必要です。
  • 給与振込先の口座情報:銀行振込で支払う場合に必要です。
  • マイナンバー(個人番号):後述する「源泉徴収票」の作成に必須です。

特にマイナンバーは、最も厳重に管理すべき特定個人情報です。利用目的(税務・社会保険手続きのため)を明確に伝え、番号確認後はコピーを保管せず、メモを取るだけに留めるなど、漏洩リスクを最小限に抑える対策を講じましょう。

マイナンバー取扱いの実践例

私はマイナンバーを確認する際、専用のノートに手書きでメモし、そのノートは施錠できる引き出しに保管しています。そして、源泉徴収票を作成し税務署への提出が完了した時点で、そのメモはシュレッダーで確実に破棄します。デジタルデータで保管すると、PCのウイルス感染や不正アクセスによる漏洩リスクがあるため、あえてアナログで管理しています。

2-4. STEP4: 給与の支払いと「源泉徴収」の計算方法

アルバイトを雇うと、給与を支払う際に個人事業主は所得税を天引き(源泉徴収)して、本人に代わって国に納める義務があります。これは単発アルバイトでも例外ではありません。計算には、国税庁が公開している「源泉徴収税額表」の日額表「丙欄」を使用するのが一般的です。

源泉徴収の計算例(丙欄適用)

  • 条件:日給12,000円、交通費1,000円を別途支給
  • 課税対象額:12,000円(交通費は非課税)
  • 源泉徴収税額:国税庁の「給与所得の源泉徴収税額表(日額表)」の丙欄で「12,000円」に該当する税額を確認 → 230円
  • 差引支給額:12,000円 – 230円 = 11,770円
  • 実際に支払う金額:11,770円(差引支給額) + 1,000円(交通費) = 12,770円

この計算を毎回行うのは手間がかかります。私は月額1,000円程度のクラウド給与計算ソフトを導入していますが、これにより計算ミスがなくなり、毎月の事務作業が30分以上は短縮されました。投資対効果は非常に高いと感じています。

2-5. STEP5: 支払い完了の証拠「領収書」の作成と保管

給与を支払ったら、必ず支払い記録を残しましょう。現金で手渡す場合は、アルバイト本人にサインまたは捺印をもらった領収書を保管します。

領収書には以下の項目を記載します。

  • 支払日
  • 支払金額(総支給額)
  • 源泉徴収税額
  • 差引支給額
  • 受取人(アルバイトの氏名・住所)
  • 支払者(あなたの屋号・氏名・住所)

なお、給与の領収書は売上代金ではないため、受取金額が5万円未満であれば収入印紙は不要です。銀行振込の場合は、振込記録が領収書の代わりになります。

【この章の実践チェックポイント】
 「労働条件通知書」「マイナンバー確認」「源泉徴収」の3点セットは、単発アルバイト雇用の必須事項として覚えておきましょう。

3章. 個人事業主が単発アルバイトを雇う場合の源泉徴収税と確定申告

3章. 個人事業主が単発アルバイトを雇う場合の源泉徴収税と確定申告の完全マニュアル

アルバイトを雇うことで預かった源泉徴収税は、適切に国へ納付し、確定申告で正しく処理して初めて、一連の手続きが完了します。この税務処理は個人事業主の重要な義務であり、怠ると延滞税などのペナルティが課されるため、正確に理解しておきましょう。

3-1. 源泉徴収税の納付方法と便利な「納期の特例」

アルバイトを雇うことで源泉徴収した所得税は、原則として給与を支払った月の翌月10日までに、税務署に納付しなければなりません。しかし、給与を支払う従業員が常時10人未満の個人事業主は、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署に提出することで、納付を半年に一度にまとめることができます。

  • 1月~6月分の源泉徴収税 → 7月10日までに納付
  • 7月~12月分の源泉徴収税 → 翌年1月20日までに納付

納付の際は、「所得税徴収高計算書(納付書)」を作成し、金融機関や税務署の窓口で納付します。e-Taxを利用すれば、オンラインでの納付も可能です。

3-2. 確定申告での経費計上方法(白色・青色申告別)

単発でアルバイトを雇う際に支払った給与は、もちろん事業の経費として計上できます。確定申告の際に、以下の書類の該当項目に年間の支払総額を記入します。

  • 白色申告:収支内訳書の「給料賃金」欄
  • 青色申告:青色申告決算書(損益計算書)の「給料賃金」欄

この「給料賃金」として経費計上するためには、その支払いを証明する客観的な証拠が不可欠です。STEP2で解説した雇用契約書や領収書、勤務記録などの関連書類は、最低7年間保管する義務があります。

税務調査での実例

 以前、税務調査を受けた際に「この期間の給料賃金が急に増えていますが、内訳を説明してください」と質問されました。その際、保管していたアルバイト全員分の労働条件通知書と、サイン入りの給与支払明細兼領収書を提示したところ、すぐに納得してもらえました。もしこれらの書類がなければ、経費として認められなかったかもしれません。記録の保管は、未来の自分を守るための保険です。

3-3. 年末調整と「源泉徴収票」の発行義務

「単発でアルバイトを雇う場合にも源泉徴収票は必要なの?」という疑問をよく耳にしますが、答えは「原則として必要」です。所得税法により、給与を支払った者(事業主)は、その年の最後に給与を支払った日から1ヶ月以内に、すべての受給者(アルバイト)に対して源泉徴収票を交付する義務があります。

源泉徴収票は、アルバイト本人が確定申告を行う際や、転職先で年末調整を受ける際に必要となる重要な書類です。国税庁のウェブサイトから様式をダウンロードして作成し、必ず本人に交付しましょう。

3-4. 税務署へ提出する「法定調書合計表」とは?

確定申告の時期(翌年1月31日まで)には、「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」という書類を作成し、税務署に提出する必要があります。

これは、1年間に支払った給与の総額や源泉徴収した税額の合計などを税務署に報告するための書類です。この合計表に、作成した源泉徴収票の内容を転記して提出します。

【この章の実践チェックポイント】
 「納期の特例」を申請し、事務負担を軽減しましょう。そして、「源泉徴収票(本人交付用)」と「法定調書合計表(税務署提出用)」の作成・提出を忘れないよう、スケジュールに組み込んでおきましょう。


第4章. 単発バイトの社会保険・労働保険はどうすべき?加入義務の境界線

第4章. 単発バイトの社会保険・労働保険はどうすべき?加入義務の境界線

「たった1日アルバイトを雇うだけでも、保険の手続きは必要なの?」 これは、多くの個人事業主が抱く共通の疑問です。答えを先に言うと、「はい、一部は必要です」。

特に「労災保険」は、従業員を1人でも、1日でも雇った瞬間に加入義務が発生します。この章では、複雑に思える保険制度を「労災保険」「雇用保険」「社会保険」の3つに分け、それぞれ加入義務が発生する条件を明確に解説します。

4-1. 義務です!1日でも雇ったら必須の「労災保険」

アルバイトを雇う上で必須となる労災保険は、従業員が仕事中や通勤中にケガ、病気、あるいは死亡した場合に、治療費や休業中の生活費などを補償する制度です。そして、最も重要なポイントは、雇用形態や期間、労働時間に関わらず、従業員を1人でも雇ったすべての事業主に加入が義務付けられていることです。

ヒヤリとした体験

 開業して半年後、初めてアシスタントとしてアルバイトを雇うことになりました。その際、正直に言うと「1日だけだし、保険は大丈夫だろう」と高を括っていました。幸い何も起こりませんでしたが、後日、もしその日に彼が事務所の階段で転んで骨折でもしていたら、治療費や休業補償など数百万円を私が全額負担する可能性があったことを知りました。まさに背筋が凍る思いでした。その日のうちに労働基準監督署へ走り、「保険関係成立届」を提出したのは言うまでもありません。

労災保険の加入手続き

  • 提出書類:「保険関係成立届」
  • 提出先:所轄の労働基準監督署
  • 提出期限:最初の従業員を雇った日の翌日から10日以内

手続きは書類1枚で完了します。保険料は全額事業主負担で、業種ごとに定められた料率(賃金総額の0.25%〜8.8%)で計算され、年に一度「年度更新」という手続きで納付します。このわずかなコストを惜しんだために、事業継続が危ぶまれる事態に陥るリスクを考えれば、加入しない選択肢はありません。

4-2. 条件は?単発バイトで「雇用保険」の加入が必要なケース

アルバイトを雇う際に気になる雇用保険は、従業員が失業した際の生活保障(失業手当)や、育児・介護休業中の給付を行う保険です。単発アルバイトの場合、以下の両方の条件を満たした場合にのみ、加入義務が発生します。

  • 31日以上の雇用見込みがあること
  • 1週間の所定労働時間が20時間以上であること

したがって、数日間だけの単発アルバイトであれば、雇用保険の加入義務は通常発生しません。

ただし、注意点があります。最初は単発のつもりでも、「この人、仕事が早いから来週もお願いしよう」と繰り返し依頼し、結果的に上記の条件を満たす状態になった場合は、その時点から加入義務が生じます。

4-3. 個人事業主の多くは対象外?「社会保険」の加入義務

アルバイトを雇う上で、社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、病気やケガ、老後の生活を支えるための制度です。個人事業主の場合、社会保険の加入義務は事業所の状況によって異なります

  • 従業員が常時5人未満の個人事業所: 原則として、社会保険の加入義務はありません(任意適用は可能)。多くの個人事業主はこちらに該当します。
  • 従業員が常時5人以上の個人事業所(※一部業種を除く): 強制適用事業所となり、加入義務が発生します。その上で、アルバイトが週の労働時間20時間以上など、一定の条件を満たす場合に被保険者となります。

【この章の実践チェックポイント】 
人を雇うと決めたら、まず「保険関係成立届」を労働基準監督署へ提出する。この1アクションが、あなたの事業を最大の危機から守ります。

第5章. 事例で学ぶ!個人事業主が単発アルバイトを雇う際の4つの注意点

第5章. 事例で学ぶ!個人事業主が単発アルバイトを雇う際の4つの注意点

アルバイトを雇う手続きを完璧にこなしたつもりでも、思わぬところでトラブルは発生します。ここでは、実際に起こりがちなトラブル事例とその防止策を、私の実体験や専門家のアドバイスを交えながら具体的に解説します。

5-1. 【税務調査の標的】家族への給与支払いで注意すべきこと

配偶者や親族をアルバイトとして雇うケースは少なくありません。しかし、この「家族への給与」は、税務署が特に厳しくチェックする項目の一つです。

税務調査官はここを見ている!

「生計を共にしている家族への給与は、実態のない経費を計上して利益を不当に圧縮(=節税)するために使われやすい、と見なされます。そのため、①本当にその業務に従事しているか、②給与額は仕事内容に見合っているか(第三者に同じ金額で払えるか)、という2点を客観的な証拠で証明できなければ、経費として認められません。」 

トラブル防止のポイント

  • 勤務実態の記録: タイムカードや業務日報を作成し、「いつ、どんな仕事をしたか」を客観的に記録する。
  • 適正な給与額の設定: 近隣の同種業務の求人広告などを参考に、社会通念上、妥当な時給・日給を設定する。その根拠資料も保管しておく。
  • 給与の支払い: 他の従業員と同様に、毎月決まった日に銀行振込で支払う。手渡しは避け、通帳に記録を残す。

5-2. 【言った・言わない問題】契約トラブルを防ぐコミュニケーション術

「当日払いだと思っていたのに…」「こんな作業、聞いてません!」 こうした認識のズレは、報酬や業務内容に関する事前の説明不足が原因です。

実際のトラブル経験者の声

 「『簡単な軽作業』と聞いて行った現場が、炎天下での資材運搬でした。時給は良かったですが、事前に知っていれば応募しませんでした。作業内容のミスマッチは本当につらいです。」(20代・学生)

第2章で解説した「労働条件通知書」の交付はもちろんですが、それに加えて、口頭でも丁寧な説明を心がけることが重要です。特に、以下の点は念入りに確認しましょう。

  • 報酬の支払いタイミング: 「当日、業務終了後に現金でお支払いします」「月末締めで、翌月15日にご指定の口座へ振り込みます」など具体的に。
  • 想定される業務の範囲: 「基本は受付業務ですが、場合によっては簡単な清掃をお願いすることもあります」など、可能性のある業務も伝えておく。
  • 守秘義務: 顧客情報などを扱う場合は、その重要性と守秘義務について明確に伝え、誓約書に一筆もらうとより効果的です。

5-3. 【法令違反リスク】最低賃金と労働時間のルール遵守

単発でアルバイトを雇う場合でも、当然ながら労働基準法が適用されます。特に以下の3点は、知らなかったでは済まされない重要なルールです。

  • 最低賃金: 各都道府県で定められた最低賃金額以上の時給を支払う必要があります。必ず自社の所在地の最新の金額を確認しましょう。
  • 休憩時間: 労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を、労働時間の途中で与えなければなりません。
  • 割増賃金:
    • 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働させた場合:25%以上の割増
    • 深夜(22時~翌5時)に労働させた場合:25%以上の割増

過去の失敗談

 過去にイベントで、休憩時間を十分に取らせず9時間連続で働いてもらったことがあります。その結果、アルバイトの集中力が終盤で著しく低下し、お客様対応でミスを連発。クレーム対応に追われ、かえって業務効率が悪化しました。法律を守ることはもちろん、パフォーマンス維持のためにも適切な休憩は不可欠だと痛感した出来事です。

5-4. 【未来の自分を守る】7年間は必須!適切な記録の保管

アルバイトを雇う際の一連の書類は、税務調査や万一の労務トラブルが発生した際の、あなたの正当性を証明する唯一の武器です。以下の書類は、最低でも7年間は保管しましょう。

  • 雇用契約書 or 労働条件通知書
  • 勤務記録(タイムカード、業務日報など)
  • 給与の支払い記録(領収書、振込明細)
  • 源泉徴収に関する書類

私は「2025年_アルバイト関連」のように年度別にフォルダを作り、個人ごとにクリアファイルで分けてファイリングしています。このひと手間で、後々の「あの書類はどこだっけ?」という膨大な時間ロスを防げます。

【この章の実践チェックポイント】
 家族を雇う際は「第三者が見ても納得できるか?」を基準に、勤務記録と適正な給与設定を行いましょう。

第6章. 単発アルバイトを雇うのは本当にお得?個人事業主にとってのメリット・デメリット

ここまでアルバイトを雇う手続きや注意点を解説してきましたが、「正直、面倒くさそう…」と感じた方もいるかもしれません。しかし、単発アルバイトの活用は、その手間を補って余りあるメリットを事業にもたらします。この章では、メリットを最大化し、デメリットを最小化する賢い活用術を考えていきましょう。

6-1. なぜ単発アルバイトを雇うのか?3つの大きなメリット

個人事業主が単発でアルバイトを雇うメリットは、主に以下の3つに集約されます。

  • 人件費の最適化(変動費化): 正社員を雇うと、仕事の量に関わらず毎月固定給が発生します。一方、単発アルバイトなら繁忙期や特定のプロジェクトなど、本当に人手が必要な時だけにコストを集中できます。これにより、固定費を抑え、経営の柔軟性を高めることができます。
  • コア業務への集中: 梱包・発送、データ入力、イベントの受付といった定型的な業務をアウトソースすることで、事業主であるあなたは、商品開発や営業戦略といった事業の根幹をなすコア業務に集中できます。
  • 専門スキルの短期活用: 自分にはない専門スキル(例:動画編集、デザイン、外国語対応など)を、プロジェクト単位で短期的に活用できます。これにより、事業の幅を大きく広げることが可能です。

6-2. 「教えるのが面倒…」を解決する、効果的な活用法

 一方で、アルバイトを雇うことのデメリットも存在します。最大の課題は「業務の習熟度が低く、毎回教えるのが大変」という点でしょう。

アルバイト経験者の本音 

「マニュアルが何もなく、口頭で一度説明されただけだと、不安で何度も同じことを聞いてしまいます。簡単なものでも良いので、手順が書かれた紙が1枚あるだけで、安心感と作業効率が全然違います。」(30代・パート)

この「教育コスト」というデメリットを克服し、メリットを最大化するための3つの工夫をご紹介します。

  • 神は細部に宿る「シンプルマニュアル」の作成 完璧なマニュアルは不要です。業務の手順を箇条書きにしたテキストや、スマホで撮影した作業風景の動画(3分程度)があるだけで、教育時間は劇的に短縮されます。私は主要な作業ごとにA4一枚の「ワンシートマニュアル」を用意しており、アルバイトが来る前に渡しています。これにより、同じ説明をする手間が8割方なくなり、すぐに作業に取り掛かってもらえます。
  • 「リピーター制度」で優秀な人材を確保 一度働いてもらって相性が良かった人は、まさに「金の卵」です。次回もお願いできるよう、連絡先を交換し、「また繁忙期にお願いしても良いですか?」と一言添えておきましょう。さらに、「リピーター時給(例:初回より+50円)」を設定するのも有効です。これにより、教育コストはゼロになり、安定した品質が期待できます。
  • 適切な「業務の切り分け」 単発アルバイトには、判断を伴わない「単純作業」や「定型業務」を切り出して任せるのが成功の秘訣です。「誰がやっても同じ結果になる仕事」は何かを考え、業務を分解してみましょう。複雑な業務は事業主自身が行い、周辺業務を任せることで、全体の生産性が向上します。

【この章の実践チェックポイント】
 単発アルバイトを「使い捨ての労働力」ではなく、「短期的なビジネスパートナー」と捉え、マニュアル作成やリピーター制度で継続的な関係を築く視点を持ちましょう。

7章. 個人事業主による単発アルバイトの雇用に関してよくある質問

ここまで単発でアルバイトを雇うための一連の流れを解説してきましたが、実際の現場では「こんな時、どうするの?」という細かな疑問が次々と湧いてくるものです。この章では、私が過去にクライアントから受けた質問や、多くの個人事業主が抱きがちな疑問に、Q&A形式でお答えします。

7-1. Q. アルバイトがマイナンバーの提出を拒否しました。どうすればいいですか?

A. 強制はできませんが、事業主としての対応記録を残すことが重要です。

マイナンバーの提供は、税務署等に提出する書類作成のために必要な協力依頼ですが、従業員が提供を拒否した場合に、事業主が強制的に取得することはできません。また、提供がないことを理由に雇用を拒否することも望ましくないとされています。しかし、事業主としては、マイナンバーを記載すべき書類(源泉徴収票など)を税務署に提出する義務があります。そのため、提出できない場合は、マイナンバーが空欄のまま書類を提出することになります。

7-2. Q. アルバイトを雇う中で、もし相手がケガをしたら労災保険の手続きはどうすれば?

A. 速やかに「労働者死傷病報告」を労働基準監督署に提出し、治療の手配をします。

万が一、アルバイトが業務中にケガをした場合は、パニックにならず、以下の手順で冷静に対応してください。

  • 病院での治療を優先: まずは本人の安全が第一です。速やかに病院で治療を受けさせてください。その際、「労災です」と伝え、健康保険証は使わないよう指示します。(労災指定病院であれば、窓口での治療費負担なく受診できます)
  • 労働基準監督署への報告: 事故の状況を把握し、速やかに所轄の労働基準監督署に「労働者死傷病報告」を提出します。これは労災かくし(労災事故を隠蔽すること)を防ぐための重要な義務です。
  • 保険給付の手続き: 治療費を請求するための「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)」などの書類を作成し、病院経由で労働基準監督署に提出します。

手続きが複雑に感じるかもしれませんが、労働基準監督署に連絡すれば、必要な書類や手順を丁寧に教えてくれます。まずは事故の発生を正直に報告することが肝心です。

7-3. Q. 日払いで給与を支払う場合、源泉徴収はどう計算すればいいですか?

A. 国税庁の「源泉徴収税額表」の日額表「丙欄」を使って計算します。

日払いや週払いであっても、源泉徴収の基本的な考え方は同じです。2章で解説した通り、継続的な雇用関係にない日雇い労働者への給与は、源泉徴収税額表の「日額表・丙欄」を適用します。

【丙欄が使える条件】

  • 日雇い、または日々雇用される人
  • 雇用契約期間があらかじめ定められている場合は、2ヶ月以内の人

ほとんどの単発アルバイトはこの条件に該当します。国税庁のウェブサイトで最新の税額表を確認し、その日の給与額(交通費を除く)に応じた税額を徴収してください。

7-4. Q. 支払った給与が3万円以上だと収入印紙が必要と聞きましたが本当ですか?

A. いいえ、給与の支払いを証明する領収書に収入印紙は不要です。

これは非常によくある誤解です。収入印紙が必要なのは、「売上代金」に係る金銭の受取書です。アルバ-イトに支払う給与は、事業主から見れば「支払い」であり、アルバイトから見れば「労働の対価」であって「売上」ではありません。したがって、アルバイトに給与を支払い、その受領書(領収書)をもらう際に、金額がいくらであっても収入印紙を貼る必要はありません。

個人事業主でも単発アルバイトを雇うことで事業成長に繋げられる!

この記事では、個人事業主が単発でアルバイトを雇う際に必要な手続きから、トラブル防止の注意点、そして賢い活用法までを網羅的に解説してきました。最後に、あなたが今日から実践すべき重要なポイントをチェックリストとしてまとめます。

単発でアルバイトを雇うための完璧チェックリスト

  • 契約前
    •  業務内容や報酬を明確にし、「労働条件通知書」を作成したか?
    •  募集要項に、誤解を招く曖昧な表現はないか?
  • 雇用当日
    •  本人確認とマイナンバーの確認(または依頼記録)を行ったか?
    •  労働条件通知書を交付し、内容を説明したか?
  • 給与支払時
    •  源泉徴収税額表(日額表・丙欄)で正しく税額を計算したか?
    •  支払いの証拠となる領収書(サイン入り)または振込記録を保管したか?
  • 雇用後
    •  労災保険の「保険関係成立届」を労働基準監督署に提出したか?(未加入の場合)
    •  源泉徴収税を納付したか?(「納期の特例」の申請がおすすめ)
    •  確定申告に向けて、源泉徴収票と法定調書合計表の準備はできているか?
    •  関連書類を7年間保管する準備はできているか?

個人事業主にとって、単発アルバイトは繁忙期を乗り越え、事業を次のステージに進めるための強力なパートナーとなり得ます。しかし、それは適切な知識と手続きという土台があってこそです。

「面倒だ」「複雑だ」と感じる手続きも、一度経験してしまえば、次回からは驚くほどスムーズに進められるようになります。この記事が、あなたの事業運営における不安を解消し、新たな一歩を踏み出すための確かなガイドとなることを心から願っています。

もし不明な点があれば、決して自己判断せず、税理士や社会保険労務士といった専門家、あるいは地域の税務署や労働基準監督署に相談することをためらわないでください。アルバイトを雇うための正しい知識は、あなたの事業とあなた自身を守る最強の盾となるのですから。

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SNSやチラシ、ホームページなど、集客の方法はたくさんありますが、

「プロに頼むと費用が高そう…」「自分でできるか不安…」

そんなふうに感じている方も多いのではないでしょうか?
では、実際に外注した場合、どれくらいの費用がかかるのかご存じですか?

サービス内容相場(月額)
SNS運用代行月額 20万円~40万円
広告運用代行月額 30万円~60万円
ホームページ制作運用初期20万円〜、更新費別で数十万円

集客の外注費用を見て、「高すぎる…」と感じたあなたへ。
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この記事を書いた人

鵜飼 あきひろのアバター 鵜飼 あきひろ 株式会社Grill 取締役/店舗経営・集客コンサルタント

2014年にオイシックス株式会社で海外事業を担当後、香港・中国現地法人の社長に就任。
2017年に起業した株式会社Emooveでは代表として事業を成長させ売却・EXIT。
現在は株式会社Grillの取締役COOとして複数の飲食店舗を経営する傍ら、現場目線で成果の出る集客支援に取り組んでいる。
豊富な実践経験と経営視点を活かし、小さなお店の“ファンづくり”をサポートするのが信条。

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