第1章. フランチャイズで加入必須な保険とは?5種類の社会保険の中身を知る

1-1. 健康保険:医療費負担を軽減する“入口”となる保険
健康保険は、医療費の自己負担を原則3割(年齢や所得に応じて2割・1割の場合あり)に抑えてくれる公的保険制度です。フランチャイズにおいても、オーナー自身や従業員が病院へかかったときに大きな助けとなります。法人の場合や一定条件を満たす個人事業主の場合には、協会けんぽや組合健保に加入するケースが多いです。一方、雇用を伴わない個人事業主であれば、通常は国民健康保険を選ぶことになります。
ただし、フランチャイズ経営でスタッフを雇う場合は、健康保険と厚生年金への加入義務が生じることがあります。たとえば従業員が週の所定労働時間で常用従業員の4分の3以上働く場合、オーナーは健康保険(協会けんぽ等)への切り替えを検討しなければなりません。未加入状態を放置していると、のちに「過去にさかのぼって保険料を納める」よう行政指導を受けたり、ペナルティを科されるリスクがあるため注意が必要です。
1-2. 雇用保険:失業・育児休業給付など従業員に欠かせない制度
雇用保険は、失業したときの失業手当(基本手当)や、育児休業・介護休業を取得した際の給付金によって生活をサポートする保険制度です。フランチャイズオーナーが従業員を雇う場合、週20時間以上かつ31日以上雇用の見込みがあるスタッフは雇用保険の被保険者となるため、加入手続きが必要になります。
雇用保険のメリットは、スタッフのモチベーションアップと定着率の向上にあります。たとえば、育児休業を取得する従業員が給付金を受け取れる環境なら、「長く働ける職場」として認知されやすくなるでしょう。また、失業給付があると知っている求職者は安心感を得やすく、求人広告にも「雇用保険加入あり」と明記できるので採用面での強みとなります。一方、雇用保険料はオーナー・従業員の双方が負担する形となるため、給与計算時にミスがないよう注意が必要です。
1-3. 労災保険:仕事中や通勤途中のケガ・病気を保障

労災保険は、業務中や通勤時に生じたケガ・病気・障害・死亡などを保障する仕組みで、事業主が全額保険料を負担します。飲食店や物販店など多様なフランチャイズ事業がある中でも、どんな業種・業態であっても従業員を1名でも雇用すれば労災保険は必ず加入が義務です。アルバイト・パートでも対象となるため、「週2日勤務だから不要」といった誤解は禁物です。
労災保険に未加入のまま従業員がケガをすれば、高額な治療費や休業補償をオーナー側が全額負担する可能性があります。さらに、従業員とのトラブルに発展し、信用低下につながるリスクも大きいでしょう。逆に、きちんと加入していれば、調理場で火傷したり、品出し中に腰を痛めたりした従業員が十分な補償を受けられるため安心感が生まれます。経営者にとっても従業員にとっても、まさに“あって当然”の制度だといえます。
1-4. 厚生年金:老後・障害年金が国民年金より手厚くなる
厚生年金は、法人や一定規模の個人事業主が従業員を雇用する場合、強制的に適用される公的年金制度です。一般的に、国民年金よりも高い保険料を負担する一方、将来の老後年金や障害年金の給付額も大きくなるメリットがあります。長期的に見れば、フランチャイズオーナー自身の老後資金対策や、従業員の定着促進にも役立つ制度といえるでしょう。
注意点として、法人化している場合は代表取締役(オーナー)も厚生年金に加入するのが基本です。保険料は会社・従業員が折半する形ですが、役員報酬が高いほどオーナーの保険料負担額も上昇します。ただ、最終的には年金受給時に「払った分以上の給付を受ける」可能性が高いことから、短期的なコストだけで判断するのは得策ではありません。採用面でも「厚生年金に入れる職場」は安心感があり、応募者に選ばれやすくなります。
1-5. 介護保険:40歳以上が負担する公的介護サービス
介護保険は、原則40歳以上の人が加入・保険料を負担し、要介護状態となったときに公的サービスを利用できる制度です。健康保険とセットで保険料が徴収されるため、フランチャイズオーナーや従業員が40歳を超えると、給与明細には「介護保険料」が加わります。
この制度自体は、特に雇用形態に関係なく広く適用されますが、事業主であるオーナーは従業員の年齢に応じて正しい計算・天引きをする義務があります。とくに40歳を迎えたタイミングで「あれ、保険料が急に上がった」という従業員からの問い合わせが来ることもあるため、事前に周知しておくとトラブルを防げるでしょう。介護保険が充実している職場は、ミドル世代以上の従業員が安心して働きやすくなるメリットにもつながります。
筆者の体験談:社会保険労務士へ相談
フランチャイズ開業での成功のカギを知りたい方は、『飲食店のフランチャイズ開業のすべて!儲かる仕組みから成功の秘訣まで大公開!』の記事をご覧ください。
第2章. フランチャイズオーナー必見!加入必須の保険と加入を検討すべき保険の仕分け!

2-1. 《加入必須》国民健康保険・国民年金保険・介護保険
フランチャイズで開業する際、もし従業員を雇わずに個人事業主として始めるのであれば、一般的には国民健康保険と国民年金保険への加入が必要です。会社員や法人経営者のように厚生年金・健康保険に入らず、個人として負担する形になります。加えて、40歳を超えれば介護保険料も国民健康保険料に上乗せされるかたちです。
国民健康保険・国民年金は負担額が比較的低い反面、将来の給付(特に年金額)は厚生年金ほど手厚くないという点がデメリットです。とはいえ、最初は小規模にスタートするフランチャイズオーナーが国民健康保険と国民年金に入るのは自然な流れといえます。従業員を増やして規模拡大を狙う段階で厚生年金や健康保険に切り替えるかどうか検討するのが一般的でしょう。
一方で「介護保険」については、加入時期が年齢に左右されるため、40歳以上であれば自動的に保険料が発生します。個人事業主のままでも、国民健康保険とセットで支払うことになるため、「従業員を雇う・雇わない」に関わらず必須です。
2-2. 《加入推奨》厚生年金・健康保険・雇用保険・労災保険
フランチャイズオーナーが事業を拡大したい、あるいは法人化を視野に入れているなら、厚生年金と健康保険(協会けんぽ等)への加入を前向きに検討する価値があります。法人化すれば原則として代表取締役や従業員は厚生年金・健康保険に入る義務がありますし、雇用保険・労災保険も当然カバーしなければなりません。
筆者の実践談:フランチャイズ運営での社会保険
厚生年金や健康保険への加入は、国民年金や国民健康保険より月々の保険料が高くなる傾向にあります。しかし採用面の競争力や、将来の老後保障を含めた長期的メリットを考えると、法人化や事業拡大を目指すオーナーにとっては大きな支えになるでしょう。また、労働者が増えれば雇用保険・労災保険への対応も必須となるため、人を本格的に雇うなら「社会保険完備」をセットで考えることをおすすめします。
第3章. フランチャイズで従業員を雇ったら必須の社会保険とその条件

3-1. 雇用保険・労災保険はアルバイトでも対象になる
もしフランチャイズ店舗をオープンして、アルバイトやパートを雇う場合、週20時間以上の勤務がある従業員については雇用保険に加入させる義務が発生します。また労災保険は雇用形態にかかわらず「従業員を1人でも雇ったら」必ず必要です。ときどきオーナーの中には「学生バイトだから雇用保険はいらない」「週2日勤務で労災保険に入れる必要はない」と誤解している方がいますが、法律上は誤りです。
雇用保険は離職した従業員が一定要件を満たせば失業手当を受給できるほか、育児休業中の育児休業給付金も設けられています。一方の労災保険は、職場での事故や通勤途中のケガに対する補償制度。飲食業やサービス業では、人手不足の中で従業員が multitasking を行い、ケガのリスクも増えがちです。未加入だと従業員に十分な補償を提供できず、結果的に経営者が大きな賠償責任を問われる可能性もあります。
仮に未加入のまま行政や年金事務所に発覚すれば、過去にさかのぼって保険料の徴収を受けるほか、罰則を科されるケースもあり得ます。「アルバイトだから大丈夫」ではなく、シフトや働き方の実態に合わせて必ず届け出を行うことが大切です。
3-2. 健康保険・厚生年金も適用範囲が拡大中
健康保険と厚生年金は、常用従業員の4分の3以上の所定労働時間で働くスタッフを雇えば強制加入となります。また、平成28年(2016年)以降、短時間労働者への社会保険適用範囲が段階的に拡大されており、週20時間以上働き、月額賃金が88,000円を超える方など一定要件を満たす場合には健康保険・厚生年金の加入が義務となるケースが増えつつあります。
フランチャイズ飲食店や小売店舗などでは「パートが急にシフトを増やして週4日勤務になった」など、勤務実態が変化して自動的に社会保険適用の対象となるパターンがよくあります。オーナーが気づかずに放置していると、後々「未加入の罰則」や「遡及請求」という大きな負担に直面しかねません。さらに、従業員側も本来なら支払われるべき給付金や年金額が得られず、不満を抱いて退職してしまう可能性も否めないでしょう。
第4章. 意外と知られていない? フランチャイズの社会保険の加入が任意になる3つの条件
4-1. 雇用しない個人事業主・法人
フランチャイズ経営であっても、従業員を1人も雇用しない場合は、オーナー本人が国民健康保険と国民年金保険で完結できるケースがあります。たとえば、法人を設立しても役員が自分1人だけで、かつ労働者としての実態がない場合には、厚生年金や健康保険の強制適用外となることもあるのです。ただし、役員報酬を支払いながら「実際には従業員と同様の働き方」をしていると認定されれば、社会保険の適用対象になる可能性があるため注意しましょう。
法人代表が「雇用ゼロだから社会保険はいらない」と思い込み、後から役員の労働実態を指摘される例もあります。特にフランチャイズ本部との契約上、代表者が現場に立って従業員業務を行うことが想定される場合は、専門家に確認しておくと安心です。
4-2. 雇用数が少ない個人事業主
個人事業主としてフランチャイズを始め、常時雇用する従業員が5人未満であれば、業種によっては健康保険・厚生年金の“任意適用事業所”に該当する場合があります(ただしサービス業や商業など、一部業種は例外あり)。任意適用事業所に該当すると、従業員の同意を得たうえで社会保険に加入するかどうかを選択可能です。
任意適用を選ばずに保険料負担を抑える方法もありますが、従業員側としては「厚生年金に入って将来の年金を増やしたい」「健康保険(協会けんぽ)で医療費負担を軽減したい」と望むケースが多く、任意適用を回避すると人材確保やモチベーションに悪影響が出やすいリスクがあります。将来的に従業員数を増やす予定があるなら、最初から社会保険に加入しておいたほうがスムーズです。
4-3. 任意適用事業所として加入を選ぶ際のポイント
一度、任意適用事業所として社会保険に加入すると、その後に容易に“脱退”できない点が大きな特徴です。逆にいえば、任意適用を選ぶと本格的に厚生年金・健康保険の体制を整えるため、人材採用や定着率アップ、信用力向上などの恩恵を得やすくなります。特にフランチャイズの場合、本部に「社会保険未加入」状態を指摘されると、ブランドイメージを損ねるおそれもあるでしょう。
また、任意適用を決める際には従業員の意見を集約し、同意書のような形で手続きを進める必要があります。実務面では、年金事務所や各種届出書類の準備が必要になるため、社会保険労務士に相談すると手間を減らせるでしょう。手続きは煩雑でも、長期的には安定経営とスタッフ確保にプラスに働くと考えるオーナーが多いです。
筆者の体験談:強制適用の恐怖
社会保険の他にもフランチャイズは知らないと失敗する可能性が高いです。詳しく知りたい方は『フランチャイズオーナーが失敗する主な原因とは?事例から学ぶ悲惨な結末を避ける方法!』の記事も併せてご覧ください。
第5章. フランチャイズで社会保険をうまく活用するための3つの心得
5-1. 不要な保険に入らない:店舗特性と業務リスクを見極める
フランチャイズ経営を始めると「保険は手当たり次第に入っておくべき」と考える方もいますが、むやみに契約すると保険料だけがかさみ、収益を圧迫しがちです。公的保険(厚生年金・健康保険・雇用保険・労災保険)は法律で義務付けられるものが多いため避けられませんが、店舗総合保険やPL保険(賠償責任保険)、さらには特約で火災・盗難・休業補償などを付ける場合など、どこまで補償範囲を拡大するかは業態・店舗規模次第です。
飲食店であれば厨房設備の火災リスクに備える、物販店なら店舗内での事故・盗難補償を検討する、というように業務リスクを洗い出し、本当に必要な補償に絞ることが大切です。「念のため全部」ではなく、コスト対効果を考えながら保険内容を決めましょう。
5-2. 保険料込みで人件費シミュレーションを行う

労務費(人件費)を考える際、オーナーは従業員の「給与総額」だけでなく、事業主負担の社会保険料を含めて計算する必要があります。たとえば、正社員を1名採用するとして、月給20万円なら健康保険と厚生年金合わせて月あたり約3万円前後を事業主が負担するケースもあり、合計の人件費は実質23万円程度です。
この負担を把握せずにスタッフを増員すると、資金繰りに余裕がなくなってしまうことも。特に役員報酬を高めに設定している法人オーナーは、自身の厚生年金・健康保険分の負担額も大きくなります。毎年の昇給や人事構成の変化に合わせて保険料をシミュレーションし、収支計画に織り込んでおくことが、経営トラブルを防ぐポイントです。
5-3. 余裕ができたら任意共済や保険を検討
公的保険をベースにしたうえで、小規模企業共済や経営セーフティ共済などの国や公的機関が運営する共済制度を活用するのも一案です。小規模企業共済は個人事業主や法人の役員が加入できる“退職金”のような仕組みで、掛金は全額所得控除になるため節税効果が高いです。また、経営セーフティ共済(倒産防止共済)は取引先の倒産リスクにも備えられ、緊急時に無担保・無保証人で融資を受けることができます。
必須の社会保険に加えて、こうした共済や保険を余力のある段階で取り入れれば、経営が安定しやすくなるでしょう。特にフランチャイズは本部との取引だけでなく、仕入先や外部業者との取引が多い業態も多いため、取引先リスクを軽減できるセーフティ共済は注目度が上がっています。
筆者の体験談:適切な保険加入を
第6章. フランチャイズの社会保険に関してよくある質問
6-1. Q1:「個人事業でも厚生年金と健康保険に加入しなければいけないの?」
A:個人事業主であっても、常時5人以上の従業員を雇う業種(サービス業などの場合)や、週の所定労働時間が4分の3以上のパートが複数いる場合など、強制適用事業所に該当すれば厚生年金・健康保険が義務化されます。雇用人数や業種によって異なるため、年金事務所で「適用事業所」に当てはまるか早めに確認しましょう。
6-2. Q2:「雇用保険はアルバイトの学生でも入れなきゃいけない?」
A:アルバイトやパートが学生であっても、週20時間以上かつ31日以上雇用する見込みがあるなら雇用保険の加入対象になります。学校が休みの時期だけ働くなど短期雇用で条件を満たさない場合を除き、法的には対象外になりません。勤務実態を正しく把握して届け出を行うことが大切です。
6-3. Q3:「家族に働いてもらう場合、保険料は全部オーナー持ち?」
A:家族だからといって保険料を免除できる仕組みはありません。給与の支給や勤務時間が他の従業員と同様なら、雇用保険・健康保険・厚生年金への加入が必要です。保険料は事業主と従業員(家族)で負担を分け合いますが、家族間の金銭管理が曖昧にならないよう、必ず給与台帳や勤怠記録を整備しましょう。
6-4. Q4:「任意適用事業所から後で強制適用になることはある?」
A:あります。最初は従業員数が5人未満で任意適用を選んでいても、スタッフが増えたり業種が変わったりして強制適用事業所になるケースがあります。その場合、従業員の同意を再度得る手続きは不要ですが、早めに年金事務所やハローワークに届け出て保険料の計算を切り替える必要があります。
6-5. Q5:保険料が高くて経営を圧迫しそう。節約する方法はある?
A:社会保険料は法律で定められたもので、脱退やごまかしは違法です。対策としては役員報酬の設定や従業員の雇用形態を見直し、保険料負担に見合う売上・利益をしっかり確保することが重要になります。また、小規模企業共済や経営セーフティ共済の活用で節税効果を得るなど、別の部分でコストバランスを整えましょう。
節約方法としては経費の削減も有効手段ですので、『飲食店の経費削減完全マニュアル!すぐに効果が出るコスト最適化のアイデアをすべて大公開!』も併せてご確認くださ。
6-6. Q6:「労災や雇用保険は本部が代わりにやってくれないの?」
A:基本的にフランチャイズ本部が加盟店の従業員まで一括で社会保険に加入する仕組みはありません。オーナー自身が事業所ごとに手続きを進める必要があります。労働保険関係成立届や雇用保険適用事業所設置届などの書類は自店舗単位で扱われるため、本部任せにせず自分で管理・届け出を行いましょう。
第7章. フランチャイズを長く安定経営するために上手に社会保険を活用しよう!

フランチャイズ事業では本部のブランド力やノウハウを活用できる一方、社会保険の整備については各オーナーが責任を負うことになります。とくに、従業員が週20時間を超えて働くと雇用保険が必要になったり、労災保険は一人雇えば必須だったりなど、知らずに放置していると後から遡及請求やペナルティを受けるリスクが高まるでしょう。小規模事業や任意適用事業所に該当する場合、短期的なコストを節約するために社会保険の導入を遅らせる選択肢もありますが、優秀な人材確保や長期的な信用向上といった視点では社会保険の完備が大きく役立ちます。
また、保険料を含めた人件費シミュレーションや、店舗ごとの業務リスクを踏まえた保険選択(任意保険や共済の活用など)を計画的に行うと、経営の安定度が一段と高まります。特に法人化する際には、役員報酬と社会保険料のバランスが重要なポイント。専門家や本部、あるいは同じフランチャイズのオーナー仲間から情報を得ることで、最適な判断がしやすくなるはずです。
最終的には、オーナー自身の将来保障はもちろん、従業員にとって安心して働ける環境を整えることが、フランチャイズ経営を長く続けるための土台になります。ぜひ本記事の内容を参考にしながら、社会保険制度を“コスト”ではなく“投資”として捉え、安定した店舗運営とブランド力向上を目指してください。