「カレーは“ソース”なんです」—— フレンチ出身オーナーが横浜で挑む、唯一無二のカレー店『シチュー&カリー 横濱KAN』のつくり方

帝国ホテルから横浜のカレー専門店へ。料理人・佐藤寛が選んだ“勝負の場所”

横浜・関内にある「シチュー&カリー 横濱KAN」。異国情緒漂うこの街で、唯一無二のカレーとシチューを提供する店が、じわじわと注目を集めている。オーナーは、あの帝国ホテルで腕を磨いた元フレンチシェフ・佐藤寛さん。彼がカレーを「ソース」と捉え、独自のスタイルを築くまでの道のり、そして今なお続く挑戦とは? カイゼンラボ編集部がその想いと戦略に迫った。
【プロフィール】
シチュー&カリー 横濱KAN:横浜・日本大通り駅から徒歩3分に位置する本格カレー専門店で、名門ホテルで修業を積んだオーナーシェフ佐藤寛氏が20時間以上じっくり煮込んだ欧風ビーフシチューとカレーが自慢です。北欧カフェのような落ち着いた店内で、横浜生まれのホワイトカリーをはじめとする四季折々の料理をお楽しみいただけ、女子会やデートから貸切宴会まで幅広いシーンでご利用いただけます。
【各アカウント】
公式HP:https://yokohamakan.com/
Instagram:https://www.instagram.com/yokohama_kan/
帝国ホテルからファストフード経営、そしてカレー屋へ——異色キャリアが導いた“開業”の理由


まずは、これまでのご経歴とお店を始められたきっかけを、ざっくりお聞かせいただけますか?



もともとはフランス料理からスタートしていて、帝国ホテルにいました。帝国ホテルのメインダイニング「レ・セゾン」というレストランに3年ちょっと在籍していたんです。そのあと、同じホテル内に当時新しくできたイタリアン部門に移りまして、ちょうどイタリア料理ブームの走りの頃でしたね。
ホテルって格式が高い世界なので、若い頃は雑用ばかりで、なかなか花形のポジションは任せてもらえなかったんですよ。でも、イタリア部門に行ったらシェフがイタリア人で、日本人と違ってどんどん任せてくれるスタイルだったんです。若い中でもシフト制でいろんなポジションをやらせてもらって、イタリア料理も一通り見たって感じですね。



様々な経験を積むことができたんですね!



その後、結婚を機に企業に転職しまして、モスバーガーのグループ会社でレストラン部門のマネジメントを担当しました。そしてそこを退社するタイミングで脱サラし、今の場所に「シチュー&カリー 横濱KAN」を2018年8月にオープンした、という流れです。
なぜ横浜? なぜカレー? “横濱KAN”に込めた想いとストーリー





店舗を開かれる場所として、横浜を選ばれた理由と、店名「シチュー&カリー 横濱KAN」に込められた想いをお聞かせください。



企業勤め時代、モスバーガーの子会社にいた頃に横浜ランドマークタワーの店舗を担当していたんです。そこで横浜によく来るようになって、自然と馴染みができました。横浜って、地方出身の自分から見ても非常に魅力的な街だと感じていたんです。
それに、横浜ブランドって意外とちゃんと活かされていないなと思って。例えば北海道とか沖縄って、ブランドとしての存在感がしっかりあるじゃないですか。でも東京って「東京ってどこ?」ってなる。上野も東京、渋谷も東京で、東京という括りが曖昧。でも横浜って、街としてブランド力が強いと感じたんです。



確かに「横浜ブランド」って当時は少なかったイメージです!



異国情緒もありますし、おしゃれな街というイメージもある。そうした中で、「飲食店をやるなら専門店で勝負すべきだ」と思って、フレンチの経験を活かしつつ、欧風カレーをチョイスしました。
ただ元々は僕、カレー自体はお金を払って食べる認識がなかったんですよね笑
よく賄いでカレーが出てくるので月に10回以上カレーを食べてました。



そうだったんですか!笑



でも前職の関係で北千住の飲食店の方たちと仲良くなり、そこでカレー屋として人気のあるお店と出会ったんです。「カレーって料理としての価値があるんだ」って衝撃を受けて僕自身もカレー屋をやりたいと思ったのがきっかけですね!
しかも、日本にカレーが入ってきたのは横浜が発祥なんですよ。いわゆる海軍カレーですね。そういう歴史もありカレーを選びました。
カレーは“料理”じゃなく“ソース”だ





看板メニューのシチューやカレーを作るうえで、特に大切にしているこだわりや仕込みの工夫はありますか?



はい。うちは欧風カレーをメインにしていて、例えばカレーの種類を何種類も用意するというより、ベースとなるカレーソースを作って、それをいろんな具材やスタイルで展開しているんです。チキンカツカレーだったり、ビーフカレーだったり、野菜カレーだったり。
ただ、そのカレーの捉え方がちょっと違っていて。「カレー=ライスにかけるもの」っていう固定概念があるじゃないですか?家でお母さんが作るカレーとか。



僕含めて日本人の大半がカレーといえばライスとセットって思いますよ!



でも、僕の中ではカレーって“ソース”なんです。お昼にはカレーライスとして出しますけど、基本的には“料理のソース”として成り立つものを目指していて、だからこそ20時間くらいじっくり煮込んで、角が取れて、まろやかで深みとコクのあるソースに仕上げています。
このソースがまた、カツとの相性が抜群なんですよ。だからうちのカツカレーはかなり評判が良くて、カレーが“主役”というより、あくまで料理全体を引き立てる“支え役”なんですよね。



たとえば、グラタンに使ったり、ナスやブロッコリーと合わせてオーブンで焼いたり、パンと一緒におつまみとして出したりすることもあります。カレーを料理の「中心」ではなく、「構成要素」にしている感じです。こういう発想って、やっぱりフレンチで培った感覚から来てるんだと思います。
人通りゼロでも戦える——コロナ禍が教えてくれた“集客の本質”





立地的にベイスターズ通りという激戦区にありますよね。ファンを広げていったりリピーターを増やすために、普段から意識されている発信のコツなどあれば教えてください。



うちは2018年オープンなんですが、ちょうどスタートしてすぐにコロナが来てしまって、とにかく「店を存続させる」ことを第一に考えて、方向性も探りながらいろいろ試行錯誤しました。
ようやく最近になってコロナも落ち着いてきて、「うちの強みって何だろう?」っていうところが、やっと見えてきた感じです。うちは関内の路面店で立地はいいんですけど、実は土日ってあんまり人が歩いてないんですよ。周囲がオフィス街だから、週末になるとゴーストタウンみたいで(笑)。



オフィス街の飲食店を経営している方なら誰もが悩む点ですよね。



そうですね。昔は食べログやグルメサイト、雑誌、テレビみたいな情報媒体が主流だったけど。でも、「今の時代、SNSを使えば、人が通ってなくてもお客さんは来てくれる」って気づいたんです。みなとみらいにデートに来て、その場でスマホでお店を調べて、目的地を決めてから来る人が増えた。食べたいものがあったら20分くらい歩いてくるし、電動スクーターとかレンタル自転車で来る人も増えましたよ。
今はInstagramやX(旧Twitter)、Googleマップとかで“目的来店”される時代。情報発信がリアルな集客に直結してるんだって、ここ数年ですごく実感しています。
長年愛された!6年間人気No.1「横浜ホワイトカレー」誕生秘話





これまでで「一番反響が大きかった!」と感じた企画やメニューと、そのときの手応えをぜひお聞きしたいです。



実は、開業してすぐの頃に出した「横浜ホワイトカレー」っていうメニューがすごく当たったんです。オマール海老をベースにして作った白いカレーで、ちょうど付き合いのある業者さんがすごくいいオマール海老を安く仕入れられるタイミングがあって、それを使って開発しました。
“白いカレー”ってインパクトあるじゃないですか? 見た目も味も珍しくて、それを「横浜ホワイトカレー」っていう名前にして出したら、もうお客様の反応がすごくて。SNSでも話題になって、今まで6年間くらいずっと人気No.1のメニューでした。



それはすごいですね!今も人気商品なんですか?



最近なんですが、コロナの影響でその業者さんが海外からのコンテナ仕入れをやめてしまって、オマール海老の入手が難しくなってしまったんです。だから、つい最近販売を終了したんですが、来月の7周年記念にあわせて限定復活させようと準備しています。仕入れもなんとか確保できそうなので。
これは「うちにしかないメニューだよね」とよく言われていて、レシピも含めて、これまでで一番手応えを感じたメニューですね。
挑戦とリベンジ——コロナ禍で学んだ“販売の壁”を超えるために





今後チャレンジしたいことがあれば、ぜひ教えてください。



そうですね、やっぱりホワイトカレーのレトルト化には再挑戦したいと思っています。実は一度、コロナ禍で手を出したんですよ。でも、しっかり販売ルートを整えてなかったので、在庫がデッドストックになっちゃって…。あれは正直失敗でした。
でもあの時の経験もあるので、次はちゃんと準備して、EC(オンライン通販)を含めて再展開したいなと思ってます。今はチーズケーキも人気なので、そちらも通販できたら面白いなと。



ECは難しいですが、攻略できれば心強い販売経路になりますからね!



そうなんですよ!あと最近人気が出てきたのが「焼きカリーライス」ですね。実は中身はカレードリアなんですけど、「焼きカリー」って呼ぶ方がキャッチーでしょ(笑)。あえてそういう名前にして、メニューとして前に出していこうと思っています。
同じ料理でも“名前”で売上が倍に? お客の心をつかむネーミング術



そういったメニュー開発はどんなふうに行っているんですか?



今までカレー専門で修行を積んできたわけではないんですが、これまでさまざまな料理を作ってきた経験から、「この食材同士は相性が良いはず」とか、「このお客様層にはこんな味わいが喜ばれるだろう」といった仮説を立てながら試作を重ねています。フレンチやイタリアンで培った調理技術を応用しつつ、でも最終的には親しみやすい洋食として仕上げることを心がけていますね。
フランス料理というのは、僕がやっていた頃は本当に格式高く、技術的にも非常に洗練された料理でした。ただ、当時の僕には少し敷居が高く感じられる部分もあって、正直なところフランス料理の全てが美味しいと感じられなかったんですよね。今振り返ると、まだ若くて経験も浅かったので、その奥深さや繊細さを十分に理解できていなかったのかもしれません笑。でも、そこで学んだ基礎技術や味作りの考え方は、今のカレー作りにも確実に活かされていると思います。



そうだったんですね笑 試作した料理はどのようにメニュー化していくんですか?



試作したら、常連さんに出してみて反応を見たり、週替わりメニューや平日限定メニューとして出してみて様子を見るんです。そこで、面白いのが「料理名」なんです。同じ料理でも名前を変えるだけで、売れ方が全然違うんですよ。



えええ!同じ料理でも名前が違うだけで変わるんですか!?



全く変わります!笑 例えば昨日出したものを、次の日はちょっと名前を変えて出してみる。そうすると、同じものなのに注文数が倍になることもあるんです(笑)。
あとはターゲット層でも変わります。ビジネスマン、観光客、近所の常連さん——それぞれ使う金額も時間帯も違うので、それに合わせたメニュー設計も大切だと思っています。
チェーン店だと、そういう柔軟な運用はなかなか難しいと思うんです。でも、うちみたいな個人店だからこそ、そういう自由さが出せる。それが強みですね。
正解のない時代で生き残るには——料理人・佐藤寛が語る「継続の力」



最後に、同じく飲食店を運営している方へメッセージがあればお願いします。



そうですね、あまり偉そうなことは言えないですけど、自分自身にも言い聞かせているのが「継続は力なり」っていうことです。
特に今の時代は、何が正解かわからない。昨日うまくいったことが、今日には通用しなくなってたりする。それでも、やっぱり続けることでしか見えてこないことってあると思うんです。



試行錯誤しながらでも、止まらずに進んでいくこと。それが何より大事じゃないかなって思ってます。
一流ホテル出身の料理人が挑んだ“カレーという新境地”——編集部が見た「シチュー&カリー 横濱KAN」の現在地
“料理としてのカレー”ではなく、“ソースとしてのカレー”。佐藤さんのこの視点に、深い哲学と現場感覚がにじんでいました。柔軟に、しかし軸を持って挑み続ける「シチュー&カリー 横濱KAN」。その進化は、これからも注目です。
そして、このインタビューを読んでくださっているあなたのお店にも、きっと唯一無二のストーリーがあるはずです。次は、あなたの挑戦を僕たちに教えてください。カイゼンラボは、そんな情熱ある現場の声をこれからも届けていきます。