「独立したはいいけど、税金って何が何だかさっぱり…」「結局、いくら稼いだらいくら払うの?」「節税したいけど、何から手をつければいいか分からない」
自営業・フリーランスとしての一歩を踏み出したあなたが、今まさに抱えている悩みではないでしょうか。私も独立当初、売上を上げることばかりに夢中で、税金のことは後回しにしていました。そして、初めて確定申告の時期を迎えたとき、その複雑さと納税額の大きさに愕然とした経験があります。
でも、ご安心ください。税金は、決して難しいだけの「敵」ではありません。正しい知識を身につければ、納税額を予測し、合法的にコントロールできる「味方」に変わります。
この記事では、自営業者が支払う税金の全体像から、具体的な計算方法、そして今日からすぐに実践できる節税術まで、7つのステップに分けて徹底的に解説します。税理士などの専門家の知見や、私自身の成功・失敗体験、そして多くのフリーランス仲間から集めたリアルな声も交えながら、あなたの「税金の不安」を「事業を成長させる自信」に変えるお手伝いをします。
第1章 自営業が支払う「4つの税金」の種類と仕組み

まずはじめに、自営業者(個人事業主)が納めることになる税金の全体像を掴みましょう。会社員時代は給料から天引きされていたため意識することが少なかったかもしれませんが、独立するとこれらの税金をすべて自分で計算し、納付する必要があります。
主に「所得税」「住民税」「個人事業税」「消費税」の4種類です。これらは国に納める「国税」と、お住まいの都道府県や市区町村に納める「地方税」に分かれます。まずは「どんな税金があるのか」を一つずつ見ていきましょう。
1-1. 所得税:1年間の「利益」に課される国への税金
所得税は、自営業の税金の中で最も基本となる国税です。毎年1月1日から12月31日までの1年間に得た事業の利益(所得)に対して課税されます。
重要なのは、売上そのものではなく、「収入 − 必要経費 = 所得」という計算で算出された「儲け」に対して税金がかかるという点です。
所得税は、所得が多ければ多いほど税率が高くなる「累進課税」が採用されています。税率は5%から最高45%まで7段階に分かれており、自分の所得に応じた税率で計算されます。この所得税の金額を自分で計算し、原則として翌年の2月16日から3月15日までの間に国に申告・納税する手続きが「確定申告」です。
専門家が解説「収入」と「所得」の決定的違い
1-2. 住民税:前年の所得に応じて「自治体」に納税

住民税は、お住まいの都道府県と市区町村に納める地方税です。その年の1月1日時点での住所地に、前年の所得をもとに計算された税額を納付します。
住民税は、大きく分けて2つの要素で構成されています。
- 均等割(きんとうわり):所得金額にかかわらず、自治体のサービス(教育、福祉、防災など)を維持するために、住民が等しく負担する部分。おおむね年間5,000円〜6,000円程度です。
- 所得割(しょとくわり):前年の所得金額に応じて負担する部分。税率は、都道府県民税と市区町村民税を合わせて、原則として所得の約10%です。
確定申告を正しく行っていれば、その情報が税務署から各自治体に連携されるため、改めて住民税の申告をする必要はありません。通常、6月頃に自治体から「住民税決定通知書」と納付書が送られてきて、年4回(6月、8月、10月、翌1月)に分けて納付するか、一括で納付します。
通知書が届いたらまず「課税標準額(所得割)」と「税額(所得割額)」の欄を確認するようにしましょう。ここを見れば、自分の所得に対していくらの住民税がかかっているのかが一目瞭然です。
1-3. 個人事業税:特定の「70業種」のみが対象の地方税
個人事業税は、その名の通り個人事業に対して課される地方税(都道府県税)です。ただし、すべての自営業者が対象となるわけではありません。 地方税法で定められた70の法定業種に該当する場合のみ、納税義務が発生します。
例えば、コンサルタント業、デザイン業、不動産貸付業などは対象ですが、ライターやプログラマー、翻訳家などは多くの場合、対象外となります。
個人事業税には、年間を通じて事業を行っている場合、一律で290万円の事業主控除があります。これは、年間の事業所得が290万円を超えなければ、個人事業税は課税されないことを意味します。290万円を超えた部分に対して、業種ごとに定められた税率(3%〜5%)で課税されます。
こちらも確定申告をしていれば、8月頃に都道府県から納付書が送られてきます。
あなたの仕事は対象?判断に迷う業種の分類例
自分の事業が法定業種に該当するかどうかは、判断に迷うケースも少なくありません。特にIT関連の職種は注意が必要です。
- デザイン業(税率5%):Webデザイナー、グラフィックデザイナーなど。
- コンサルタント業(税率5%):経営コンサルタント、ITコンサルタントなど。
- 請負業(税率5%):Webサイト制作を請け負う場合など。
- 非課税の可能性が高い業種:Webライター、システムエンジニア(SE)、プログラマーなど(ただし、契約内容によっては請負業と見なされる場合も)。
1-4. 消費税:「売上1000万円超」または「インボイス登録」で発生する税
消費税は、商品の販売やサービスの提供などに対して課される国税です。お客様から代金と一緒に預かった消費税から、仕入れなどで自分が支払った消費税を差し引いた差額を国に納めます。
自営業者の場合、消費税の納税義務がある「課税事業者」と、納税が免除される「免税事業者」に分かれます。
原則として、基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円を超えると、その年から課税事業者となり、消費税を納める義務が生じます。さらに、2023年10月から始まったインボイス制度も重要です。課税事業者である取引先から「インボイス(適格請求書)」の発行を求められた場合、インボイス発行事業者として登録する必要があります。そして、この登録を行うと、売上高にかかわらず自動的に課税事業者となります。
第1章のチェックポイント
自分が納めるべき税金は「所得税」「住民税」を基本とし、業種によっては「個人事業税」、売上規模やインボイス登録の有無によっては「消費税」が加わることを理解しましょう。
第2章 自営業における納税額の計算方法と年収別シミュレーション

4つの税金の存在を理解したところで、次に気になるのは「で、結局いくら払うの?」という点でしょう。この章では、税額を計算するための具体的なステップと、年収別の納税額シミュレーションを見ていきます。ここを理解すれば、納税に対する漠然とした不安が、具体的な数字に基づいた安心に変わります。
2-1. 税額を決める「課税所得」の算出式を理解する
税金計算の世界で最も重要なキーワードが「課税所得」です。これは、税率を掛ける前の、税金の計算の元となる金額のことです。この課税所得がいくらになるかで、最終的な納税額が大きく変わります。
課税所得は、以下の式で計算されます。
【課税所得の計算式】
収入(売上) − 必要経費 − 各種所得控除 = 課税所得
- 収入(売上):1年間にお客様から受け取った金額の合計。
- 必要経費:収入を得るために使った費用のこと(詳細は第3章で解説)。
- 各種所得控除:個人の事情(扶養家族の有無、生命保険の加入など)に応じて、所得から差し引くことができる金額のこと(詳細は第4章で解説)。
この式を見れば分かる通り、「経費」や「所得控除」を漏れなく計上することが、課税所得を圧縮し、結果的に税金を安くする(=節税)ための鍵となります。
売上500万円でも課税所得は185万円?
例えば、私のとある年の実績は以下の通りでした。
- 収入(売上):5,000,000円
- 必要経費:1,500,000円(取材交通費、資料代、通信費など)
- 青色申告特別控除:650,000円
- 所得控除:1,000,000円(基礎控除、社会保険料控除、iDeCoなど)
これを計算式に当てはめてみましょう。
5,000,000円(収入)−1,500,000円(経費)−650,000円(青色申告控除)=2,850,000円(事業所得)
2,850,000円(事業所得)−1,000,000円(所得控除)=1,850,000円(課税所得)
このように、売上は500万円あっても、経費や控除をしっかり適用することで、税金の計算対象となる「課税所得」は185万円まで下がりました。この差が、最終的な納税額に大きく影響するのです。
2-2. 所得税・住民税・個人事業税の計算ステップ
課税所得が算出できたら、いよいよ各種税金の計算です。ここでは、先ほどの筆者の例(課税所得185万円)を使って、計算ステップを見ていきましょう。
所得税は、課税所得に所得税率を掛けて計算します。税率は、以下の速算表(※1)を使って求めます。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
(以下略) |
筆者の課税所得は185万円なので、「195万円以下」の区分に該当します。
所得税額=1,850,000円×5%−0円=92,500円
さらに、この所得税額に2.1%を掛けた復興特別所得税(92,500円 × 2.1% = 1,942円)が加わります。
住民税は、課税所得に対して一律約10%の税率がかかる「所得割」と、定額の「均等割」の合計です。
所得割額≈1,850,000円×10%=185,000円
均等割額≈5,000円
住民税額≈185,000円+5,000円=190,000円
個人事業税は、事業所得から290万円の事業主控除を引いた金額に税率を掛けます。
事業所得(2,850,000円)< 事業主控除(2,900,000円)
筆者の事業所得は290万円以下なので、個人事業税は0円となります。
2-3.年収300万〜1,000万円の納税額・社会保険料シミュレーション早見表
個別の計算は複雑なので、ここでは事業所得(収入-経費)別の年間の税金・社会保険料の合計額の目安を一覧表にしました。自分の状況と照らし合わせて、大まかな負担額をイメージしてみてください。
【シミュレーション条件】
- 職種:Webデザイナー(個人事業税の対象)
- 申告方法:青色申告(65万円控除)
- 年齢:35歳、独身、東京23区在住
- 所得控除:基礎控除、社会保険料控除のみ
事業所得 | ①所得税・復興税 | ②住民税 | ③個人事業税 | ④国民健康保険料 | 年間負担額合計 | 手取り額の目安 |
---|---|---|---|---|---|---|
300万円 | 約8.9万円 | 約18.8万円 | 約0.5万円 | 約36.9万円 | 約65.1万円 | 約234.9万円 |
500万円 | 約30.4万円 | 約37.6万円 | 約10.5万円 | 約56.5万円 | 約135.0万円 | 約365.0万円 |
800万円 | 約88.9万円 | 約65.6万円 | 約25.5万円 | 約87.7万円 | 約267.7万円 | 約532.3万円 |
1,000万円 | 約141.5万円 | 約84.8万円 | 約35.5万円 | 約104万円 | 約365.8万円 | 約634.2万円 |
※上記はあくまで概算です。国民年金保険料(年間約20万円)は別途かかります。実際の金額は個人の状況により変動します。
高所得フリーランスのリアルな悩み(40代・ITコンサルタント)
第2章のチェックポイント
自分の「課税所得」を算出できるようになりましょう。それが分かれば、おおよその納税額を予測し、計画的に資金を準備することができます。
第3章 税金を減らすために!自営業が経費にできるもの・できないもの

第2章で、納税額の計算において「必要経費」を漏れなく計上することがいかに重要か、お分かりいただけたかと思います。この章では、節税の第一歩であり、最も基本的な対策である「経費」について徹底的に掘り下げます。「何が経費になるのか?」という疑問を解消し、あなたの支出を1円でも多く経費に変えるための知識を身につけましょう。
3-1. 事業との「関連性」を説明できる経費かどうか
経費にできるかどうかを判断するたった一つの、そして最も重要な基準。それは「その支出が、事業の売上を上げるために必要だったか」を、客観的かつ合理的に説明できるかどうかです。
極端な話、高級レストランでの食事が、重要な取引先との接待であれば「接待交際費」として経費になります。一方で、近所のカフェでのコーヒー代も、友人とのおしゃべりのためであれば経非にはなりません。品目や金額ではなく、「事業との関連性」がすべてなのです。
税務調査が入った際に、調査官に対して「この支出は、こういう理由で事業に必要でした」と堂々と説明できるか。常にこの視点を持つことが大切です。そのためにも、領収書やレシートには、但し書きが「お品代」などと曖昧な場合は「〇〇社様との打ち合わせ代として」などと手書きでメモを残しておく習慣をつけましょう。
筆者の経費管理シートを公開
私は、経費管理にGoogleスプレッドシートを活用しています。日付、金額、勘定科目はもちろん、最も重要な「摘要」の欄を必ず埋めるようにしています。
日付 | 勘定科目 | 金額 | 支払先 | 摘要(内容) |
---|---|---|---|---|
4/5 | 旅費交通費 | 1,280円 | JR東日本 | △△社(渋谷)への打ち合わせ往復交通費 |
4/8 | 新聞図書費 | 2,530円 | Amazon | 書籍『Webライティングの教科書』購入 |
4/10 | 接待交際費 | 8,500円 | カフェ・ルノアール | 〇〇様(新規クライアント)との打ち合わせ |
このように記録しておくことで、確定申告時に仕訳が楽になるだけでなく、万が一税務調査があっても慌てず、支出の正当性をすぐに証明できます。会計ソフトと連携させれば、この作業はさらに効率化できます。
3-2. 経費にできるもの勘定科目別リスト
「事業との関連性」という大原則を理解した上で、具体的にどのようなものが経費になるのか、代表的な勘定科目別に見ていきましょう。
- 消耗品費:文房具、コピー用紙、インクカートリッジ、10万円未満の備品(マウス、キーボードなど)
- 旅費交通費:電車代、バス代、タクシー代、出張時の宿泊費や飛行機代
- 通信費:インターネット回線料、サーバー代、携帯電話料金、切手代、送料(事業使用分)
- 接待交際費:取引先との打ち合わせでの飲食代、贈答品(お中元・お歳暮)、慶弔費(ご祝儀・香典)
- 新聞図書費:事業に関連する書籍、雑誌、新聞、有料メルマガの購読料
- 広告宣伝費:Web広告の出稿費、チラシの作成・印刷費、Webサイトの制作・維持費
- 地代家賃:事務所や店舗の家賃、駐車場代、レンタルスペース代
- 水道光熱費:事務所の電気・ガス・水道代
- 支払手数料:銀行の振込手数料、クレジットカードの年会費(事業用)、税理士への報酬
- 減価償却費:10万円以上のパソコン、車、カメラなどの購入費用(耐用年数に応じて数年に分けて経費化)
「これって経費?」判断に迷う経費Q&A
- 仕事で着るスーツ代は経費になりますか?
-
原則として、プライベートでも着用できるスーツは経費になりません。ただし、特定のイベントでのみ着用する衣装や、ロゴ入りの制服などは経費として認められる場合があります。
- 取引先との打ち合わせで使ったカフェ代は?
-
経費(接待交際費)になります。レシートに相手の名前や目的をメモしておきましょう。一人で仕事をするために利用したカフェ代も、場所代として経費計上できる場合があります。
- スキルアップのためのセミナー参加費は?
-
事業に直接関連する内容であれば、経費(研修費など)になります。関連性の低い自己啓発セミナーなどは認められない可能性が高いです。
- 自宅で仕事をしている時のランチ代は?
-
残念ながら、経費にはなりません。事業主の昼食はプライベートな支出と見なされます。
3-3. 家賃・光熱費を経費にする「家事按分」のやり方
在宅で仕事をしている自営業者にとって、非常に重要な経費計上のテクニックが「家事按分(かじあんぶん)」です。これは、自宅の家賃や水道光熱費、通信費など、プライベートと事業の両方で使っている支出を、事業で使った分だけ合理的な基準で分けて経費に計上することです。
按分の基準は、税法で明確に決まっているわけではありませんが、税務署に説明できる「合理的」な基準を用いる必要があります。
- 家賃:事業で使用している部屋の床面積で按分するのが一般的です。
- 例:家全体の面積が50㎡で、仕事部屋が10㎡の場合 → 事業使用割合は20%(10㎡ ÷ 50㎡)
- 電気代:事業での使用時間や、コンセントの数などで按分します。
- 例:1日のうち8時間仕事をしている場合 → 事業使用割合は約33%(8時間 ÷ 24時間)
- 通信費:インターネット回線料なども、使用時間で按分します。
これらの按分基準は一度決めたら、基本的には継続して同じ基準を使い続けることが大切です。
飲食店の経費削減テクニックをもっと知りたい方は、『飲食店の経費削減完全マニュアル!すぐに効果が出るコスト最適化のアイデアをすべて大公開!』の記事をお読みください。
第3章のチェックポイント
「事業との関連性」を基準に、経費にできる支出を1円でも多く見つけ出しましょう。特に在宅ワーカーは「家事按分」をマスターすることが大きな節税に繋がります。
第4章 所得控除をフル活用!iDeCoからふるさと納税まで自営業が使えるお得な制度10選

経費と並ぶ、もう一つの強力な節税の柱が「所得控除」です。所得控除とは、納税者個人の事情(家族構成や保険の加入状況など)を税額に反映させるため、所得から一定額を差し引くことができる制度です。
経費が「事業の売上を上げるための支出」であるのに対し、所得控除は「個人の生活に関わる支出や備え」が税金の負担を軽くしてくれるイメージです。年末調整のない自営業者は、これらの控除を自分で確定申告で申請しなければ、その恩恵を受けることはできません。この章では、自営業者が活用すべき所得控除を厳選して解説します。
4-1.iDeCo・小規模企業共済で老後資金を作りながら節税
会社員と違い、退職金や手厚い厚生年金がない自営業者にとって、老後資金の準備は最重要課題です。そして、その準備がそのまま強力な節税になる、まさに一石二鳥の制度が存在します。それが「iDeCo(個人型確定拠出年金)」と「小規模企業共済」です。
- iDeCo(イデコ):
- 自分で掛金(自営業者は月額最大68,000円)を拠出し、投資信託などで運用して、60歳以降に年金または一時金として受け取る私的年金制度です。最大のメリットは、支払った掛金の全額が所得控除の対象になることです。
- 小規模企業共済:
- 自営業者のための退職金制度です。掛金は月額1,000円から70,000円の範囲で自由に設定でき、こちらも掛金の全額が所得控除の対象となります。廃業時や退職時に、積み立てたお金を退職金として受け取ることができます。
どちらも、将来の自分への仕送りをしながら、現在の所得税・住民税を大きく減らすことができる、自営業者なら絶対に検討すべき制度です。
4-2. 経営セーフティ共済で「もしも」に備えながら節税
フリーランスとして働く上で怖いのが、取引先の倒産や予期せぬ契約打ち切りによる売上の急減です。そんな「もしも」の事態に備えるためのセーフティネットが「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)」です。
この共済は、取引先が倒産した場合に、無担保・無保証人で掛金の最大10倍(上限8,000万円)まで借入れができる制度です。そして、節税面での最大のメリットは、月々の掛金(5,000円~20万円)を必要経費として全額算入できる点です(※個人事業主の場合)。
最大で年間240万円、総額800万円まで積み立てることができ、40ヶ月以上掛金を納めれば、解約時に掛金の全額が戻ってきます。つまり、実質ノーリスクで将来の運転資金をプールしながら、現在の所得を圧縮できるという、非常に強力な節税策なのです。
FPが語る「会社員との差を埋めるために自営業者が入るべき共済」
4-3. ふるさと納税を限度額まで使い倒す
節税と聞くと堅苦しいイメージがありますが、楽しみながらできるのが「ふるさと納税」です。
ふるさと納税は、自分が応援したい自治体に寄付ができる制度です。寄付した金額のうち、2,000円を超える部分については、所得税の還付や住民税の控除が受けられます。つまり、実質2,000円の自己負担で、寄付先の自治体からお米やお肉、果物といった返礼品を受け取ることができる、非常にお得な制度です。
ただし、控除される金額には、所得や家族構成に応じた上限額があります。この上限額を超えて寄付した分は、純粋な寄付となり自己負担になるため注意が必要です。まずは、ふるさと納税サイトのシミュレーターなどを使い、自分の控除上限額を把握することから始めましょう。
ふるさと納税の賢い活用術(30代・Webライター)
4-4. 医療費控除・生命保険料控除などの基礎控除
最後に、忘れずに申請したい基本的な所得控除も確認しておきましょう。これらは会社員であれば年末調整で手続きしてくれますが、自営業者は確定申告で自分で申告する必要があります。
- 医療費控除:
- 1年間に支払った医療費の合計が10万円(または総所得金額の5%)を超えた場合に受けられる控除です。自分自身の医療費だけでなく、生計を一つにする配偶者や親族の分も合算できます。
- 生命保険料控除:
- 生命保険や介護医療保険、個人年金保険の保険料を支払っている場合に、一定額の所得控除が受けられます(最大で12万円)。
- 社会保険料控除:
- 支払った国民年金保険料や国民健康保険料の全額が控除の対象です。
- 基礎控除:
- すべての納税者に適用される控除で、合計所得金額に応じて最大48万円が控除されます。
第4章のチェックポイント
経費にできない個人的な支出でも、「所得控除」の対象になるものが数多くあります。将来への備えやリスク対策になる制度を積極的に活用し、所得を圧縮しましょう。
第5章 自営業が知っておくべき青色申告と納税手続きの完全ガイド

税金の知識を身につけ、経費や控除の理解を深めたら、いよいよ実践編です。この章では、節税効果を最大化するための「青色申告」のやり方と、実際の納税手続きの流れを解説します。ここをマスターすれば、あなたはもう税金初心者ではありません。自信を持って確定申告シーズンを迎えられるようになります。
5-1. 節税効果を最大化する「青色申告」の始め方とメリット
自営業者の確定申告には「白色申告」と「青色申告」の2種類がありますが、節税を考えるなら選択肢は「青色申告」一択です。青色申告には、白色申告にはない、数多くの税制上のメリットがあります。
青色申告の主なメリット
- 最大65万円の特別控除:
- 正規の簿記の原則(複式簿記)で記帳し、電子申告(e-Tax)を行うなど一定の要件を満たすことで、所得から最大65万円を無条件で差し引けます。課税所得が65万円減るのと同じ効果があり、節税効果は絶大です。
- 赤字の3年間繰越し(純損失の繰越控除):
- 事業が赤字になった場合、その赤字を翌年以降3年間にわたって繰り越し、将来の黒字と相殺することができます。開業当初など赤字になりやすい時期には特に重要な制度です。
- 家族への給与を経費にできる(青色事業専従者給与):
- 配偶者や親族に事業を手伝ってもらっている場合、支払った給与を全額経費にできます(※要件あり)。
これだけのメリットがありながら、青色申告を始める手続きは驚くほど簡単です。事業を開始した日から2ヶ月以内(または、その年の3月15日まで)に、所轄の税務署へ「所得税の青色申告承認申請書」という一枚の紙を提出するだけ。費用もかかりません。
5-2.申告・納付の期限一覧とスケジュール管理
自営業者は、税金の申告と納付をすべて自分で行うため、スケジュール管理が非常に重要です。期限をうっかり忘れてしまうと、ペナルティとして延滞税などの余計な税金を支払う羽目になります。
【自営業者の主な年間納税スケジュール】
時期 | 内容 | 対象の税金 |
---|---|---|
〜3月15日 | 確定申告と所得税の納付 | 所得税・復興特別所得税 |
〜3月31日 | 消費税の申告・納付 | 消費税(課税事業者のみ) |
6月、8月、10月、翌1月 | 住民税の納付(第1期〜第4期) | 住民税 |
8月、11月 | 個人事業税の納付(第1期・第2期) | 個人事業税(対象者のみ) |
これらのスケジュールは、毎年決まっています。納税通知書が届いてから慌てるのではなく、あらかじめ年間の資金計画に組み込んでおくことが大切です。
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5-3. 税金の支払い方法を徹底比較!おすすめはクレジットカード納付
税金の支払い方法には、いくつかの選択肢があります。それぞれのメリット・デメリットを理解し、自分に合った方法を選びましょう。
支払い方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
現金納付 | シンプルで分かりやすい | 金融機関や税務署の窓口に行く手間がかかる |
口座振替 | 一度手続きすれば自動で引き落とされる | 事前の手続きが必要、残高不足に注意 |
コンビニ納付 | 24時間いつでも支払える | 30万円以下の納付に限られる |
クレジットカード納付 | ポイントが貯まる、支払いを先延ばしにできる | 決済手数料がかかる、事前手続きが必要 |
スマホアプリ決済 | 手軽にキャッシュレスで納付できる | 上限金額がある場合が多い |
この中で、私が特におすすめしたいのがクレジットカード納付です。決済手数料はかかりますが、それを上回るポイント還元(通常1%前後)を受けられるカードを使えば、実質的に納税額を割引することができます。また、カードの引き落とし日まで支払いを先延ばしにできるため、資金繰りに余裕が生まれるという大きなメリットもあります。
第5章のチェックポイント
節税の恩恵を最大限に受けるため「青色申告」は必ず行いましょう。納税スケジュールを管理し、自分に合った支払い方法(特にクレジットカード納付)を選択することで、賢く納税を済ませることができます。
第6章 税金を減らしたい自営業の方が学ぶべきQ&A
税金の基本をマスターしたあなたに、最後は応用編として、さらなる節税の選択肢と、誰もが直面する可能性のある「困ったとき」の対処法をお伝えします。事業が成長していくと、新たな課題や疑問が生まれるものです。この章の知識が、あなたの事業を守るための備えとなれば幸いです。
6-1. 所得800万円超なら検討したい「法人成り」という選択肢
個人事業が順調に成長し、事業所得が安定して800万円~900万円を超えるようになってきたら、「法人成り(ほうじんなり)」を検討するタイミングかもしれません。法人成りとは、個人事業主から株式会社や合同会社といった「法人」に組織変更することです。
法人成りする最大のメリットは、税率の違いにあります。個人の所得税は最大45%の累進課税ですが、法人税の税率は所得800万円以下の部分は15%、800万円超の部分は23.2%と、一定の所得を超えると個人よりも低くなります。
その他にも、役員報酬を経費にできたり、社会的な信用度が向上したりといったメリットがあります。一方で、設立コストがかかる、赤字でも法人住民税(均等割)が発生する、社会保険への加入が義務になるなど、デメリットや負担増となる側面もあります。
専門家が語る「法人成りのベストタイミングと注意点」
6-2. 万が一、税金が払えない…放置は厳禁!すぐに税務署へ相談を
どんなに計画的に事業を運営していても、予期せぬトラブルで資金繰りが悪化し、「税金が期限までに払えない…」という事態に陥る可能性はゼロではありません。
もしそうなってしまった場合、絶対にやってはいけないのが「放置」と「無視」です。 納税は国民の義務であり、期限を過ぎると延滞税という高利率のペナルティが日割りで加算されていきます。さらに放置を続けると、最終的には銀行口座や売掛金などの財産が差し押さえられる可能性があります。
「払えない…どうしよう」とパニックになったら、まずは深呼吸をして、納付期限前に、自分から税務署や役所に電話で相談してください。 「払う意思はあるが、どうしても今は難しい」という状況を正直に伝えれば、担当者は決して無下にはしません。事情によっては、分割での納付や、「納税の猶予」といった制度の適用を検討してもらえます。
6-3. 自営業の税金に関するよくある質問まとめ
最後に、自営業者の方から特によく寄せられる税金の疑問について、Q&A形式でお答えします。
Q. 開業1年目ですが、赤字なので確定申告はしなくてもいいですか?
A. いいえ、赤字でも確定申告(特に青色申告)をすることをお勧めします。 青色申告であれば、その年の赤字を翌年以降3年間にわたって繰り越せる「純損失の繰越控除」が使えます。翌年以降に黒字が出た場合、繰り越した赤字と相殺して税金を安くすることができるため、将来の節税に繋がります。
Q. 税金をごまかしてもバレないのでは?
A. ほぼ確実にバレます。 税務署は、銀行口座の入出金記録(反面調査)や、取引先への問い合わせ、さらには近年ではSNSの投稿など、あらゆる情報から個人の所得を把握する能力を持っています。無申告や過少申告が発覚した場合、本来の税金に加えて「無申告加算税」や「重加算税」といった重いペナルティが課され、結果的に何倍もの金額を支払うことになります。正直な申告が、最もリスクが低く、賢明な選択です。
Q. 妻に仕事を手伝ってもらっています。給料を払って経費にできますか?
A. 青色申告であれば可能です。 「青色事業専従者給与に関する届出書」を事前に提出し、仕事の内容や時間に見合った妥当な金額であれば、支払った給与を全額経費にできます。これにより、世帯全体で見たときの所得税や住民税を大きく引き下げることが可能です。
第6章のチェックポイント
事業の成長に合わせて法人成りを視野に入れつつ、万が一の資金繰り悪化に備えて相談先を把握しておきましょう。税金に関する疑問は自己判断せず、正しい知識を身につけることが最大のリスクヘッジになります。
第7章 税金をしっかり学んで自営業のビジネスを成功させよう!
最後までお読みいただき、ありがとうございます。この記事を通して、あなたは自営業者として向き合うべき税金の全体像から、具体的な計算方法、そして賢い節税策まで、幅広い知識を身につけられたはずです。
特に重要なのは、
①支払う税金の種類を理解する
②経費と控除を漏れなく活用する
③青色申告で節税効果を最大化する
という3つのポイントです。
かつての私は、税金をただ奪われるコスト、面倒で難しい「敵」のように感じていました。しかし、知識を得てからは、納税額は自分の事業の成長を測る「指標」なのだと前向きに捉えられるようになりました。「税金がいくらになるか分からない」という漠然とした不安は、計画的な事業運営の最大の妨げになります。しかし、自分の納税額を予測できるようになった今、あなたは手元に残る資金を正確に把握し、安心して事業投資や生活設計を立てられる基盤を手に入れたのです。
税金は、正しい知識があれば「コントロールできるコスト」に変わります。ぜひ、ここで得た知識を武器に、自信を持ってご自身の事業をさらに成長させてください。日々の記帳や確定申告の負担を軽減してくれる会計ソフトなども活用しながら、税金を味方につけ、ご自身の未来を拓いていくことを心から応援しています。